刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

ジャニーズ判例百選

はじめに

 最近,ジャニーズ事務所絡みの話題が多いので,同人誌「大嘘判例八百選[第6版]」に掲載した「ジャニーズ判例百選」をブログ用にシングルカットしました。
 大嘘判例八百選シリーズについては以下の記事をご覧ください。
keisaisaita.hatenablog.jp


原文のはしがき

 本書もシリーズを重ねること6版を数えた。ご多分に漏れず,マンネリやネタ切れが目につき始め,目に余るほどになってきたところである。
 そこで,マンネリ打破のため,いわゆる「ジャニーズ事務所」に関係する裁判例をリサーチしてみることにした。
 ジャニーズ事務所-正確には「株式会社ジャニーズ事務所」とその関連会社であるが-は,いわゆる「ジャニーズ系」のタレントが所属する芸能プロダクションであるところ,肖像権等の知的財産権関係に非常に厳しいことで知られている。インターネット上で,ジャニーズ事務所所属タレントが灰色で塗りつぶされた雑誌の表紙を見たことがある読者も多いであろう。
 では,権利関係が原因で実際に訴訟になった事例はどれだけあるのだろうか。また,ジャニーズ系のタレントが登場する裁判例はどのくらいあるのか。当然に出てくるその疑問に答える形で本稿を起案した。
 本稿においては,上記事情から,いつも以上に公正な論評に務めることとしたい。

東京地判平成10年10月29日判例時報1658号166頁

 ジャニーズ事務所所属グループ「SMAP」のメンバーのインタビュー記事を盗用した書籍を発行した出版社に対し,メンバー及び元のインタビュー記事を掲載した出版社が,盗用書籍の発行の差し止め及び損害賠償を求め,これが認容された事案である。「SMAPインタビュー記事事件」として著名である。
 本件の判示事項の重要なものは,「口述を元にしてインタビュー記事が作成された場合に,口述者(注:インタビュー対象者のこと)はインタビュー記事の著作者となるか」というものである。本裁判例は,具体的な事情から「文書作成のための素材を提供したにとどまる」ような場合については著作者とはならないと判示した。
 この事件の当事者欄が面白い。「SMAP」のメンバーが原告になっているのであるが,「原告中居正広 外五名」とされているのである(なお,森メンバーの脱退前であることに注意する。)。通常,複数当事者がいる場合,代表的な人物・リーダー格を掲げ,「外○名」とするのが訴訟実務である。本件ではやはり中居メンバーがリーダーとされているわけである。ところで,例の一件があった今,このような訴訟が提起された場合には,誰が代表的な人物になるのであろうか・・・。

東京地判平成10年11月30日判例タイムズ995号290頁

 ジャニーズ事務所所属グループ「SMAP」「TOKIO」「KinkiKids」「V6」のメンバーの自宅や実家の住所を掲載する本を出版した出版社に対して,メンバーらがその出版・販売の差し止めを求め,「プライバシーの利益を侵害するもの」として請求が認容された事案である。「ジャニーズおっかけマップ・スペシャル」事件として著名である。
 この出版社,「SMAP大研究」「ジャニーズ・ゴールド・マップ」「タカラヅカおっかけマップ」を相次いで出版しようとしたところ,それぞれ出版を禁止する仮処分を受けてなお出版を強行し,その後,本案訴訟が提起されている。何しろ,上記「SMAPインタビュー事件」の被告もこの出版社である。当時,出版社はマスコミ宛てにジャニーズ事務所との対決姿勢を示したFAXを流していたようであり,なかなかにチャレンジングな出版社である。これだけ訴訟を起こされているのに,現在も元気に「ジャニーズおっかけマップ」を出版しているというのだから凄い(さすがに内容はプライバシーを侵害しないようにしていると思われるが。)。
 この裁判例でも,各グループのメンバーを列挙する順序が興味深い。「SMAP」は「原告中居正広、同木村拓哉、同稲垣吾郎、同草彅剛、同香取慎吾」の順,「TOKIO」は「原告長瀬智也、同城島茂、同山口達也、同国分太一、同松岡昌宏」の順,「KinkiKids」は「原告堂本剛、同堂本光一」の順,「V6」は「原告坂本昌行、同長野博、同井ノ原快彦、同森田剛、同三宅健、同岡田准一」の順である。ここでもやはりリーダー格が先頭に来るものと思われるところであるが,「TOKIO」については城島リーダーではなく,長瀬メンバーが先頭に来ている。平成10年頃にはまだ序列が定まっていなかったのであろうか。

東京地判平成25年4月26日判例時報2195号45頁

 ジャニーズ事務所所属グループ「嵐」及び「KAT-TUN」のメンバーらが,その撮影及び出版につき許諾を得ないまま書籍に写真を掲載されたとして,パブリシティ権を理由に書籍の出版・販売の差し止め,損害賠償を求めた事案。ピンクレディー事件(最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁)を引用し,本件ではパブリシティ権を侵害して不法行為法上違法となるとして,請求を一部認容した。
 原告メンバーの並び順が気になるところであるが,仮名処理されていて判然としない。しかし,ご丁寧にも,書籍名が掲載されたメンバーと対応して公表されており,これで簡単に判別がつく。さくっとぐぐったところ,「嵐」は,大野,櫻井,相葉,二宮,松本の順,「KAT-TUN」は上田,中丸,田口,田中,赤西,亀梨の順であった。後者は,Yahoo!知恵袋情報によれば,結成時に上田メンバーがリーダーに選ばれたものの,後にリーダーを辞めたとされていることと併せて考えると興味深い。

東京地判平成元年9月27日判例時報1326号137頁

 ジャニーズ事務所所属グループ「光GENII」が,パブリシティ権を被保全権利として,許諾なしに氏名・肖像を表示した商品について,販売禁止仮処分決定が認められたのに対して,これを取り消すよう出版社側が求めた事案。
 【「光GENJI」こと内海光司<ほか14名>】との表記。ほかの8名は出版社やジャニーズ事務所等ではないかと思われる。リーダーはやはり内海メンバー。

東京地判平成28年4月18日裁判所HP

 串カツ店を経営する原告会社の内紛により取締役を解任された被告が,原告の店舗の契約を被告に切り替えて競業を行ったことに対する損害賠償等を求めた事案。
 何がジャニーズに関係するかというと,この串カツ店の名前が「かつーん」なのである。
 本件訴訟においては,商標権に基づいて被告標章の使用差し止め請求もされていたところ,被告はありったけの抗弁を提出している。先使用権の抗弁の中で「ジャニーズ」の名前が登場する。すなわち,商標登録の前から標章を使用していたことの根拠として,陳述書において「平成23年5月16日にフジテレビで放送された「HEY!HEY!HEY!」でも,ジャニーズグループの「KAT-TUN」と同様の名前の串かつ店として紹介されています。」と述べているようである。しかし,裁判所は,どのような放送がされたのかに関する客観的な証拠がないとピシャリ。結局,被告標章の使用の差し止めも認められてしまった。
 なお,裁判所HPで裁判例を見ると,実際の被告標章を確認できるので興味のある読者は各自ご覧いただきたい。

東京地判平成13年12月17日判例タイムズ1102号230頁

 原告のあざと,それを除去するレーザー治療によってできた瘢痕を除去するために,被告(国)の医師が皮弁移植手術(血流のある皮膚を移植すること)を実施したところ,醜状や痛みが生じた事案につき,説明義務違反があったとして500万円余りの損害賠償を認めたもの。
 あれ? ジャニーズ関係ない? と思うのには早い。
 被告の医師が,問診中,「本件瘢痕等は洋服で隠れる部分なのだから、無理して手術をすることはなかったのではないか」等と尋ねたところ,原告が「あなたは、私がこの背中のあざでどれだけ苦労したか知らないからそういうことが言えるのだ。私は、ジャニーズ事務所に入る予定であったが、あざのために入れなかった。このあざで私の人生は狂ってしまった」と答えたようである。裁判所の認定では答えたことは認めているが,実際にあざがあったためにジャニーズ事務所に入所できなかったことは判断されていないようである。実際のところはどうであろうか。

名古屋地判平成23年5月20日判例時報2132号62頁

 同級生から継続的ないじめを受けたことにより,転校後,解離性同一性障害に罹患し,その後自殺した女子生徒の相続人が,学校を運営する学校法人・担任教諭等を被告として損害賠償を請求した事案。
 いじめのひとつとして,女子生徒がロッカーに入れていた「アイドルグループ『嵐』の『相葉雅紀』のポスター(以下『相葉ポスターという。』)」を破ったり,くしゃくしゃにされたことが認定されている。なお,交換日記の記載が引用されて「ロッカーに入ってた相葉〔C〕のポスタービリビリにされる」と記載されているが,この〔C〕はc(まるシー)のことで,「ちゃん」を表す隠語ではないかと思われる。草彅剛メンバーの「彅」の字をわざわざ外字を作って表示したり,別件ではわざわざ「マル秘」の外字を作るなど,外字を作ることに強い拘りをもっているウエストローでも,これはそのまま〈C〉と表記されていた。残念。

東京地判平成14年3月27日ウエストロー

 ジャニーズ事務所の代表者が,週刊誌で報じられた数々の疑惑について,名誉毀損等を理由に慰謝料等を求めた事案である。
 裁判所は,週刊誌の記事を仔細に検討し,以下の事実の摘示がそれぞれジャニーズ事務所及びその代表者らの社会的評価を低下させるものであると指摘した。そして,そのそれぞれにつき,真実性の抗弁・相当性の抗弁の成否を検討している。
(1) 原告Aは、少年らが逆らえばステージの立ち位置が悪くなったりデビューできなくなるという抗拒不能な状況にあるのに乗じ、セクハラ行為をしていること(本件記事2、3、5、6、7)
(2)-1 原告らは、少年らに対し、合宿所等で日常的に飲酒、喫煙をさせていること(本件記事2)
(2)-2 原告らは、少年らに対し、学校に行けないスケジュールを課していること(本件記事2)
(2)-3 ジュニア4人が万引き事件を起こしたにもかかわらず、テレビ局も原告事務所もこれを封印したこと(本件記事4)
(3)-1 原告ら、とりわけ原告事務所が、フォーリーブスのメンバーに対して非道なことをしていること(本件記事1)
(3)-2 関ジャニは、原告事務所から、給与等の面で冷遇されていること(本件記事5)
(3)-3 かねてより、原告事務所に所属するタレントは冷遇されていたこと(本件記事6)
(4) 原告事務所所属タレントのファンクラブについて、ファンを無視した運営をしていること(本件記事8)
(5) マスメディアは、原告事務所を恐れ、追従していること(本件記事4)

 このうち,真実性の抗弁ないし相当性の抗弁が成立するとされたのは,(2)-3,(3)-3,(4),(5)である。
 特に興味深いのが(5)である。次の事実を摘示しながら,真実性の抗弁ないし相当性の抗弁を成立させている。SMAPのメンバーである森且行メンバーがオートレーサーになるためにSMAPを辞めた以降,SMAPの映像を放映する際,森メンバーが写らないようにしていること,テレビ局のプロデューサーに取材した結果,メリー○○(原文ママ)が,もともとSMAPに森メンバーなどというメンバーはいなかったという趣旨の発言をしていたとの情報を得たことである。
 なお,被告はセンテンススプリングであった。

(初出:2016(平成28)年8月,刊行直前にSMAPが解散するという報道があるという数奇な運命をたどった。)