刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

国選弁護報酬について本気出して考えてみた

はじめに

 今年の7月頃から被疑者国選の対象事件が拡大され,全勾留事件について被疑者国選がつけられるようになります。
 このことを受け,水面下で法テラスと日弁連との間で国選弁護報酬について,削減されるような方向で話をしているようです。
 そんな中,このような無茶ぶりを受けてしまいました。


 こんな無茶ぶりに対応するほど暇じゃないんですが^^;;;;;;;;;;;;
 とはいえ,この状況を黙ってみているサイ太ではありません。大嘘判例八百選[第9版]に載せた,「国選弁護報酬について本気出して考えてみた」をここにシングルカットしたいと思います。 
 割と真面目に書いてますので,これを元に国選弁護報酬について議論が深まったらいいなと妄想しています。


序文

 当職は,以前,国選報酬基準について問題提起するため,「国選弁護事件で稼ぐ方法」というブログ記事を書いたことがありました。
keisaisaita.hatenablog.jp
 この記事はありがたくも多くの方に支持されましたが,「不適切」であるとの批判も多く受けることになりました。当職のキャラクターを知っていれば,この記事が皮肉であるとすぐに理解できると思われますが,文章だけではなかなか伝わらないものですね。皮肉って大きく書いてあるのに。その節はいい勉強になりました。
 さて,そんなこんなで,当職は国選弁護報酬については一家言あるわけですが,そんな中,先日,日弁連が国選弁護報酬についてのアンケートを実施したようです。日弁連の理事会の議事録によれば,このアンケートを基に法テラス,ひいては財務省と掛け合うようです。
 当職もさっそく回答しましたが,なかなかその結果が出てきません。そこで,その内容を踏まえて改めて問題提起をするべく,今度は国選弁護報酬について真面目に問題点を検討してみました。

総論

 国選弁護報酬はどのように定められるべきでしょうか。
 単純な発想として,「労力と得られた成果に応じた報酬」とすべきであることは当然でしょう(民事などでは目的物の価額によって報酬が決められますが,これが労力と必ずしも比例しないようにも思われるところですが・・・。)。
 そうすると,基本的には汗を流した方が報酬が高く,得られた成果が大きければ報酬が高くなる制度が望ましいことになります。
 他方で,現在の国選弁護報酬の基準は,「機械的に算定できる」ことに重きを置き,「労力と得られた成果に応じた報酬」という要素はほんのスパイス程度に考えられているに思われます。これは,法テラスの意向はもちろんのこと,真の敵である財務省からの圧力によるものではないかと推察されるところです(国選ブログ事件の際も,「敵は財務省」という話が出ていましたね。)。
 この基準については,弁護活動の質を法テラス,ひいては法務省が評価することが妥当かどうかという議論からも正当化されうるものです。
 しかしながら,「機械的に算定できる」ことに囚われるがあまり,他の要素が蔑ろにされているのが現状です。

提言-「被疑者・被告人の権利を守る方向にインセンティブを働かせる」

 現在,多くの弁護士が国選弁護を担当しており(日弁連の資料によれば,約7割の弁護士が国選弁護人契約をしています。),その多くの弁護士との間で国選弁護契約を締結している法テラスとしては,その多くの弁護士を適切に誘導していくことが,システムを構築する側の当然の責務だと思います。
 憲法37条に規定されている弁護人選任権を保障する制度に,「機械的に算定できる」ことを重視するような程度の覚悟で首を突っ込むべきではありません。憲法に明文で保障されていてもこの程度の扱いなのかという意味では,憲法改正で教育無償化を謳う美辞麗句の欺瞞を如実に表しているかも知れません。
 国選弁護を担当する弁護士は多く,かつては詐欺を働く愚か者がいました。それ自体,弁護士の側も反省すべき点はあるかも知れません。そこで,そのような愚か者を排除し,心ある弁護士が国選弁護を経済的な心配をすることなく受任させる方向に導くことが望まれます。
 これらの問題を解消するため,私は「被疑者・被告人の権利を守る方向にインセンティブを働かせる」という方向性を提案します。国選弁護人を導くという意味では,このような方向に努力をさせることは弁護人の責務にかないますし,なにより,このような権利が実現されるのであれば,国民からの理解は得られやすいでしょう(圧倒的な政治力を背景に「必要な負担は国民に求めざるを得ない。」などと放言できる某団体とは違うのです。)。

各論

 以上の総論を,具体的な場面に応じて検討します。ここでは,敢えて「全体的に報酬がクソ安いから上げろ」というような話はしていません。あくまで,上記のインセンティブを働かせるべきという観点からの指摘です。

・「被疑者段階・被告人段階で,示談による報酬が同じであること」はおかしい
 現在の報酬規定では,被疑者段階と被告人段階,つまり起訴の前後を通して,示談等をしたことに対する報酬が同額となっています。起訴の前と後でやることは同じ,同じ報酬だというわけです。
 しかしながら,このようにするとどうなるでしょう。
 同じ報酬ならいつやっても同じです。被疑者段階は最大でも20日ですが,被告人段階なら1回結審の事案でも期日まで1ヶ月以上あります。のんびりやる方が楽に決まっています。
 しかも,被疑者段階で示談を成立させてしまえば,起訴猶予処分になる可能性が高まり,被告人国選事件になれば得られていたであろう報酬を失います。
 このように,現状の規定では,①示談報酬が起訴前後で同じなので,時間的余裕のある起訴後にやる方が楽であること,②示談をしないことによって被告人国選の報酬をみすみす失うことから,起訴前の示談に対するディスインセンティブが2重に働いていることになります。
 これを解決するのは簡単で,起訴前の示談報酬を上げればいいだけのことです。上記のディスインセンティブが両方とも解決します。「国民の視点」的に言っても,早期に示談を成立させる方向にインセンティブが働くことになりますから,理解も得られると思います。

・「認定落ち的訴因変更」の場合にも特別報酬を加算するべき
 これは実体験です。
 起訴後,公判前整理手続中に検察官と法的議論を尽くした上で,認定落ち的に訴因が変更された事例がありました。
 判決において認定落ちとなれば,特別報酬の対象となるため,このような訴因変更でも当然に特別報酬の対象になると思っていました。しかし,事件終了後に届いたのは「訴因変更では特別報酬としては認められない」という通知文でした。当時の私は弁護士2年目の駆け出しだったので,そこで涙を飲んでしまいましたが,今なら全力で異議申立てをしていたと思います。
 さて,「認定落ち的訴因変更を公判前でさせる」のと「判決で認定落ちにさせる」のとでは,どちらが被告人の権利を確保していることにあるでしょうか。判決で認定落ちになるということは,裁判においても認定落ちが争点となり,検察官との間で争われることになります。当然,結果が出ずに訴因どおりの罪が認定されてしまう可能性もあるでしょう。他方で,訴因変更を事前にさせてさえいれば,争点とはならなくなり,被告人の地位は安定します。
 以上からすれば,このような訴因変更の場合にも特別報酬を出してしかるべきです。その算定に当たっても,起訴状と,訴因変更申立書や判決とを見比べれば容易に判定できるでしょうから,機械的な算定にも馴染むものです。

・起訴日と同一日の接見は報酬の対象とするべき
 現在の規定では,起訴後の接見では接見報酬は出ません。しかし,起訴されたかどうかの連絡はないのが普通です。そのため,知らずに接見に行き,起訴されていたというケースもよくあります。この場合,少し前であれば各地方事務所で報酬を算定していたことから,空気を読んでくれることも多かったと聞いています。しかしながら,本部で集中的に算定するようになり,機械的に取り扱われるようになったため,接見報酬が出ないようになったと聞いています。
 しかし,被告人の立場から考えるとどうでしょうか。起訴されたとすれば,その後の手続がどう進んでいくのか心配になります。また,保釈も可能になりますからそのことの説明を聞きたがっているかも知れません。そのような中,接見報酬が出ないのでは,接見に行くのを怠る方向にインセンティブが働いてしまっています。
 もちろん,起訴後にも接見報酬を付けるべきではありますが,少なくとも,起訴日と同一日の接見は起訴の前後を問わずに報酬の加算対象とすべきであると考えます。


・被疑者の飼っているペットの餌やりにも報酬の手当をすべき
 我が国では,ペットを飼養することは社会の様々な階層に普及しており,当然,被疑者もペットを飼っていたりします。身内がいればいいものの,独り身のさみしさを紛らわせるためにペットを飼っていたりすると,ペットの生命にも危険が及びます。
 そこで,国選弁護人がその世話をするために駆り出されるわけですが,これに対する報酬の手当は現状ありません。職務基本規程上,別途の費用を取るわけにもいかず,ペットの世話を頼まれた若手弁護士が悩むポイントでもあります。
 人里を犯す熊を射殺すると熊を殺すなとかいう投書が寄せられる世の中ですから,こういう費用を支出しても国民の理解は得られるんじゃないですかね。
 賢明な読者には伝わっていて欲しいですが,この項はサイ太流のジョークです。ただ,ここに記載した問題意識は真面目です。リアルで「国選弁護人の職務の範囲ではありませんので諦めてください」と伝えて信頼関係を保持できるスキルが欲しいです。

懸念

 ただ,このような方向性を取ることには,懸念がひとつあります。それは,「被疑者・被告人の権利を守って現状の報酬,少しでもサボると現状よりも減額になる」という報酬基準を策定してくる可能性です。
 たとえば,これまでの財務省のやり方からすると,「被疑者段階で示談すれば現状どおり,被告人段階で示談してもそれは時間的な余裕もあって楽勝ということだから現状よりも減額します^^」「起訴後に接見を一定回数以上行っていないと報酬を減額します^^」などと言い出しかねません。
 法テラス・財務省との折衝を担当する日弁連関係者には,弁護士のため,ひいては被疑者被告人のために,全力で戦ってきて欲しいと思います。