刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

不貞行為の無茶な言い訳判例百選

はじめに

 本当ならコミケにゲリラ参戦するつもりだったんですが,不摂生が祟り一週間寝込んでおりました。
 なので今回はコミケはお休みします。サークル参加してから丸10年だったので一応メモリアルイヤーだったんですが・・・。
 せっかくなので,最近世間を騒がせている"あの件"に関連して,「不貞行為の無茶な言い訳判例百選」をシングルカットします。
 読者からの評判が非常に良かった企画ですので,コミケの待機中にでも読み返してみてください。
 (初出;2017年8月なので第8版?)

原典のはじめに

 「カラオケの抗弁」。不貞行為慰謝料請求事件における「ラブホテルに入ったが,カラオケをしていただけで,肉体関係はない」という主張を俗にこう呼ぶ。
 よほどのことがない限りは通らない,幻の抗弁(厳密には抗弁ですらないが)である。
 実務上,不貞行為慰謝料請求事件では,被告側から「カラオケの抗弁」に類するような,割と無理のある主張が出てくる率が高いように思われる。
 そこで,判例検索システムを使って,無茶な主張が通らなかった事例を調査をすることとした。調査をしていくと,意外と無理筋っぽい主張が通ってたりする事例も割とあったのだが,他日を期したい。

東京地判平成24年11月28日ウエストロー

 メールに「ギュウ」という,社会通念上,抱きしめる行為に使われることが多いであろう擬態語について。「『ギュウ』はAが手かざしで痛みを和らげる能力を持つというのでAから被告の肩などに手をかざしてもらったことを指している。」と主張した。
 裁判所は,「言葉自体としては男性が女性を抱きしめる様子を連想させるものであり,性的行為の存在を想起させないではないが,それ自体ではあいまいな表現というよりほかない。」とした。原告の証拠関係が弱い事案であり,やむを得ない認定であろう。慰謝料は,このメールの記載等を踏まえて一部認容(30万円)した。

東京地判平成28年12月27日ウエストロー

 被告は,本案前の答弁として,訴状に記載のある被告住所は被告の実兄の住所であり,未だ被告へ送達されていないと主張。
 しかし,裁判所は訴状は被告の同居人として受領されていること,今後の送達もこの住所になるという旨の確認を書記官がした際も「構わない」と述べていること,結局訴状を前提とした答弁書を提出していることから仮に送達に瑕疵があったとしても治癒されていると認められることから,失当と判断した。
 その上で,本案に対する答弁をしなかったため,被告は擬制自白で敗訴した。

東京地判平成28年10月17日ウエストロー

 被告は,営業努力の一環として,勤務先のクラブの常連客と店外の食事などに付き合っていたに過ぎないなどと主張。
 裁判所は,ホステスの同伴出勤や外出等は「一般的に見られるところ」としつつも,「ホテルにあえて2人きりで宿泊等することがホステスの営業努力として一般的であるなどとは到底いえない」とした。認容。

東京地判平成28年10月17日ウエストロー

 被告は,「(原告の配偶者)が精神不安定であり,人目をはばからない場所で飲酒するために,本件ホテルに入室したが,室内では飲酒しており,性交渉には及んでいない。」と主張。
 裁判所は,直前の様子は「特に精神不安定である様子はうかがわれない」,「外観から明らかにラブホテルであることが認識できる本件ホテルに入るのは不自然,不合理である」などとして認容。

東京地判平成28年4月22日ウエストロー

 被告の主張。「原告は,配偶者でありながら,その行動を抑止することがなく,その不貞行為を認識しつつ,あえて離婚することもなく,今後も婚姻関係を継続する旨を述べており,これは配偶者としての権利を放棄したものとみなせるので,慰謝料請求をするのは禁反言に当たる。」
 裁判所は,権利を放棄する意思表示又はこれに類する言動等を行ったとする証拠はないとしてバッサリ。

東京地判平成28年2月24日ウエストロー

 被告は,ラブホテルに入った事実は認めるが,その理由は,盗聴等される心配がないラブホテルに入り,相談を受けたに過ぎないと主張。
 「そもそも被告らが盗聴等を心配する理由,あえてラブホテルを選択する理由等は依然として不明なまま」と断じて排斥された。

東京地判平成28年2月1日ウエストロー

 被告は,不貞行為が組合の上司から無理矢理性交渉に引きずり込まれた,パワハラ(強姦)の被害者であると主張。
 しかし,裁判所は,「3年近くに亘り,強いられ続けたという主張自体がにわかには信じがたい,生々しいメールでのやりとりは,双方が合意の元に不貞に及んでいたのでなければおよそ取り交わされるものとは認められない」と断じて,被告の主張を「およそ合理性,信用性を欠くもので,荒唐無稽であるといわざるを得ない」とオーバーキル気味な認定をした。

東京地判平成27年9月18日ウエストロー

 被告は,「原告の配偶者と同棲生活を送っていた」との主張に対し,原告の配偶者が原告によって自宅を追い出されたことに同情して被告宅に棲まわせていたに過ぎず,肉体関係は存在しないと主張。
 もちろん認めず。

東京地判平成27年8月21日ウエストロー

 被告が原告の配偶者を抱きしめている写真が撮影されたものの,被告はこれについて,職場で正社員になることができるかについて不安を感じていた原告の配偶者と,終業後に立ち話をしていた被告が,泣き出した原告の配偶者を抱きかかえる形で慰めていたところを撮影されたものであり,不貞の証拠とはならないと強弁。
 もちろん認めず。

東京地判平成27年5月27日ウエストロー

 被告は,原告の配偶者は,10年ほど前から,糖尿病及び高血圧症で投薬治療中であり,血糖値の高さを示すグリコヘモグロビン値は平成23年以降ほぼ6以上であって,性的不能の状態にあると主張。
 裁判所は,その他の事情からあっさりと,「全く性的不能であったか否かは疑わしい」と断じた。

東京地判平成26年12月24日ウエストロー

 被告が,2度の不貞行為とその発覚を繰り返して,3回目もバレた事案。2度も不貞行為がバレたので,既に婚姻関係が破綻していると主張。
 裁判所は,2度とも示談していて,2回目の示談からわずか2ヶ月後だというのだから,流石に婚姻関係が破綻していたということはできないと認定。
 ・・・そろそろお気づきだろうか。そう,ここまでの事案,すべて東京地裁の事案で,ウエストロー登載の事案なのである。判例検索システムプロバイダでは,判例の提供を求めているようだが,東京地裁で事件数が多い裁判所ではあるものの不貞慰謝料請求事件という狭いジャンルの話の,しかも目立つものだけをピックアップしてもこの量というのが恐ろしい。
 なおこの後も続く模様。

東京地判平成26年5月16日ウエストロー

 被告は,心臓の動脈に3つのステントが入っており,腹部動脈も人工血管であり,激しい運動をすると心筋梗塞狭心症の発作で死に至る可能性があるため,その恐怖から性交渉を行うことができないなどと主張した。
 しかし,裁判所は,被告が提出した診断書は,外出先で倒れた状態に対するものであり,その他,不貞行為の時期に,血圧上昇を伴う運動やストレスを伴う活動を意思から禁止されていたことを認めるに足る証拠はないとして排斥した。

東京地判平成26年5月14日ウエストロー

 被告は,直前に子宮ガン検診を受けたから不貞行為はなかったと主張。
 しかし,その根拠は,「検診後には2,3日性交を控えるべきである旨のインターネット上の匿名の書き込み」しかなく,なおかつ,その旅行は4泊5日であったというのであり,不貞行為があったとする推認を妨げないとした。

東京地裁平成24年4月13日ウエストロー

 写真結婚式を挙げまでした事案について,被告は「コスプレ衣装を身につけた『結婚ごっこ』に過ぎない」と主張。
 当然そのような言い分は認められず。

東京地裁平成23年3月28日ウエストロー

 「早くHしたい...」「Yくんを身体で感じることができて,すごく幸せな気分だよ=」「老後,下の世話,口で拭き取ってくれる約束したじゃん=」「いつも口で吸い取ってあげてるでしょ==」等のメールのやりとりを,被告は,「テレフォンセックスの延長」と強弁した。
 しかし,探偵の心配をするメールがあることや,「お互い結婚してなきゃ堂々とつきあえるのに」等のやりとりもあることから当然に排斥。

東京地判平成22年9月6日ウエストロー

 被告は,原告が不貞行為に気付いたのにもかかわらず,不貞関係を続けさせ,不貞から長期が経過してから本訴を提起していること,Aが被告に対して終始誘惑的であり主導的であったこと等から,美人局であると主張した。
 しかし,裁判所は,原告が不貞行為に気付いた時期について誤認があったとした上,そのほかに挙げる事実もただちに美人局とうかがわせるものではないとして主張を排斥した。

東京地判平成22年3月12日ウエストロー

 被告が,Aと同居し,韓国旅行及びディズニーランドに行ったことについて,「Aとは単なる仕事のパートナー,家でも仕事をする関係から同居しているのに過ぎない。旅行は,社員旅行である。」という主張を展開。
 もちろん排斥された。