刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

「弁護人選任届の実務(3)」

はじめに

ということで,少しブログを書く時間が出来たので,久しぶりに書いてみます。
先日,「弁護人選任届の実務(1)」と「同(2)」をアップしました。
それぞれ,「弁護人選任届は記名で足りるか,署名が必要か」「弁護人選任届の提出先はどこか」について論じています。
物の本ではあまり取り上げられていないマニアックな論点を,自己満足的に紹介させていただきました。まあブログの説明に「ニッチな実務解説」と書いてあるくらいですしね。
そんな中,アクセス解析を見ていますと,上記記事が「弁選 宛先」などという,ド直球の検索ワードでお越しいただいている方もいらっしゃるようです。書いた甲斐があるというものです。


しかし,当ブログに載っていない情報を検索ワードにして到達した人も意外とおられました。マニアックな論点ばかりしか書いておらず,「こっちはボス弁にせかされてるのに,時間の無駄じゃねーか」的なことを思われた方もいらっしゃったかもしれません。謹んでお詫び申し上げます。
そこで,Q&A方式で,実際に来場者のあった検索ワードを参考に,メジャーな論点について詳しくお話ししていきたいと思います(陳述書風)。
あっ,念のために申し上げますと,弁選に関する問題ですので,以下は基本的に私選弁護の場合のお話ですよ。

Q1 再逮捕や追起訴された場合,弁選を提出すべきか。

私選弁護人として活動していた被疑事件について起訴があったものの,余罪のために再逮捕されてしまった。
この場合,再逮捕された事実について弁護活動を行うのであれば,さらに弁選を出す必要があります。
刑訴規則18条の2は,追起訴された事件が併合された場合には,前件の弁選の効力が追起訴された事件にも及ぶ旨定めていますが,再逮捕の段階ではそのような要件を満たしません。ですので,弁選を新たに提出する必要があります。
この条文,追起訴されて併合されるまで弁選を出さない(レアと思われる)ケースについて定めたものですが,実際に使われたことはあるんですかね・・・。
判例を調べると,最判昭和27年2月26日集刑61号633頁があり,元々は判例法だったのを規則化したことが分かりました(こういうどうでもいい情報がニッチだという話なんですよね。)。


参考までに,国選弁護人の場合も申し上げます。
再逮捕された場合は,被疑者(被告人)から国選弁護の依頼があれば,法テラスから,再逮捕事件分も受任するかどうか打診があります。やはり改めて選任される必要があるわけですね。
追起訴,というか別事件と併合された場合には,刑訴法313条の2が,原則として併合された事件にも選任の効力が及ぶとしています。
この刑訴法313条の2も,被疑者国選が拡大した今,あまり想定しにくい場面ではあります。

Q2 弁選の書式

初公開!当職が使っている弁選の書式!

                                    
                    弁 護 人 選 任 届

                                                      平成26年8月  日
□  地方検察庁
□   区検察庁
□            御中

                                  被疑者  甲   野   太   郎

 上記被疑者に対する○○(○○法違反)被疑事件につき,弁護士刑裁サイ太を弁護人に選任しますので,連署をもってお届けいたします。

                  被 疑 者 (署名)







                  〒○○○-○○○○
                  ○○県○○市○○大字○○ ○-○-○ カジュアルビル○階
         八百選法律事務所
                  電 話 000-000-0000 
                  FAX 000-000-0000
                  ○○県弁護士会
                  	弁  護  士

いくつかコメントを。
・被疑者段階のもの。被告人にする場合,提出先は裁判所。被疑者→被告人,被疑事件→被告事件。
・提出先が複数あり得るので宛名は空欄でチェック式にしている。
・被疑・被告事件の名前は,刑法犯は「(罪名)被疑・被告事件」,特別法犯の場合は「(法律名)違反被疑・被告事件」とするのが原則。稀に「決闘殺人被告事件(神戸地判昭和61年7月30日判時1254号140頁)」みたいな例外もあったりするので注意。
・被疑者(署名)の下の空欄は,指印証明のための空白。指印証明とは,留置管理の司法警察職員が被疑者の指印であることを認証してくれるもの。もらっておいた方が無難。
・なんだかんだ言いながらも,当職は弁選には署名することにしているので氏名は空欄。
・そのほか,「刑事被疑者弁護援助事業を利用しているかどうか」のチェック欄を設ける例もある。これは,被疑者援助から国選への切り替えをスムーズにするための手法。
・弁護人が複数の場合は,同じ事務所なら「弁護士       」を付け加えればいいですし,違う事務所ならまた郵便番号から記載して書けばよろしい。ただし,弁護人の人数について刑訴法35条,刑訴規則26条,27条に注意。特に1人の私選から別の3人の私選に切り替える場合,後の私選の弁選を,前者の辞任届があるまで受領してもらえない可能性がある。


Q3 依頼者が外国人の場合の書式はどうすべきか。

当職は普通の書式を使っていますが,特に問題視されたことはありませんでした(1回しかなかったけど)。
実際,日本語の書式でも,署名指印がしてあれば受領する扱いになっているようです(外国人事件ビギナーズ参照)。通訳人にきちんと訳してもらったうえで署名指印してもらいましょう。
もちろん,可能であれば外国人の母語による書式を用いて訳文添付するのが完璧です。
裁判所や検察庁はカタカナで特定するので,フリガナを振ると丁寧だと思います。
なお,付言しておくと,いきなり外国人の被疑者に「弁護人」というと,「国の回し者(特に国選の場合)」「強制送還の手引きをする人間」「敵」などと思われる可能性が高いと言われております。「味方」であることを最初にアピールすることが,日本人の事件の場合よりも重要であると思われます。


Q4 依頼者が少年の場合の書式はどうすべきか。

さっそく「弁護人選任届 少年」という検索ワードでたどり着いた人がいたので追加。
普通の書式で問題ありません。法定代理人の欄とか要りません。あ,委任契約書を作成するのであれば法定代理人の氏名でやることになりますが。

付言すると,家裁送致された後に少年のために活動する場合は「付添人」ということになり,「付添人選任届」を「家庭裁判所」に提出することになります。



まとめ

他にも変な検索ワードでたどり着いた人がいるのを発見し次第,追加する予定です。

参考文献

条解刑事訴訟法
「弁護人選任届の扱いについて」(http://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2010_04/p30-31.pdf)
などを読んで書きました。