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他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

弁護士バッジのひまわりの意味(2)-なぜひまわりが正義の象徴とされるのか?

はじめに

 前回のnoteの続きです。
note.com
 今回は「なぜひまわりが正義の象徴とされるのか?」を深掘りします。
 今回は脚注が使えるはてなブログでやるお( ^ω^)*1

ひまわりは正義の象徴か

日弁連の見解

 前回見たとおり,日弁連は当初はひまわりを「正義の象徴」としていました。昭和24年時点の見解がこれでした。

向日葵は,外国でもSun flowerといって称賛されてゐるもので,これは正義の象徴であり中央の秤は衡平の象徴である。即ち,この記章は「弁護士の象徴」としてもっともふさわしいものであって意匠も亦頗る優美なものである。
「弁護士の記章について」 『辯護士法公布記念録』(昭和24年8月 日本辯護士連合會)

 ですが,①なぜ「外国でもSun Flowerと呼ばれていること」が「称賛」されてゐることになるのか。②なぜ正義の象徴なのか。よく分かりません。
 ①は,太陽のイメージを持たせられることが称賛に繋がる的な発想でしょうか。なんとなく分かるような分からないような。
 ②に至っては根拠も何も提示されておらず,これだけではその根拠は不明というほかありません。


 日弁連の昭和60年の段階の見解では

太陽に向って明るく力強く咲くひまわりは,正義に輝く象徴で,自由の羽ばたきを連想させ,傾斜を敏感に表示するはかりは,公正,平等の心がけを求めています。自由と正義,公正と平等という弁護士の仕事のモットーをあらわしているわけです。
パンフレット「弁護士ってなんだろう」目次 日本弁護士連合会 昭和60年5月20日

となっていますが,やはり根拠が不明確と言わざるを得ません。
 しかも,これが昭和24年当時の説と同一である保証は一切ありません。

ひまわりの花言葉

 花が何かの象徴であるということで真っ先に想像するのが花言葉です。
 ただ,花言葉を公認する機関などはなく,国や時代によっても変化したりします。本数や色,大きさ等によっても意味が異なってくることもあります。
 現在,ひまわりの花言葉として挙げられているものを調べますと,
 「あなたを見つめる」「光輝」*2「憧れ」「あなただけを見つめる」「愛慕」「崇拝」*3「偽りの富」「にせ金貨」*4などがありました。*5
 色々ありましたが,「正義」とするものは一つもありませんでした。


 時代によって変わることも考えられるので,昭和24年に近い時期の文献を探しましょう。
 昭和25年の文献では以下のとおりでした。

鈴木重雄 著 ほか『花言葉物語』18頁,あかね書房,昭和25. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1339292

敬い慕う。素敵。

吉津良恭 著『新選花言葉集』174頁,タキイ種苗出版部,1950. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1162462

大輪種 あなたは素晴らしい 小輪種 崇拝・敬慕

 ということで,現在のものと似たようなものが流布していたようですが「正義」は出てきません。この世に正義はなかったのでしょうか。

正義の花言葉を持つ花

 逆に,「正義」の花言葉を持つ花はいくつか存在します。
 ウェブサイトで花言葉を「正義」で逆引きすると,ホタルブクロ,リンドウ,ルドベキアが引っかかります。

https://www.sakaseru.jp/tools/flower-language/search-by-flower-language?flower_language=%E6%AD%A3%E7%BE%A9

 このうち,ルドベキアという花,ヒマワリに似ていませんか?


 念のため,昭和25年頃のルドベキア花言葉も調べます。

吉津良恭 著『新選花言葉集』172頁,タキイ種苗出版部,1950. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1162462

ルドベキア 不変・不倒正義

川村秀雄 著『草花の作り方 : 四季園芸』72頁,大洋社,昭和13. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1031471

ルドベキア 正義

 ということで,昭和25年頃にもルドベキアは正義という花言葉でした。


 そうすると,「もしかして勘違いしたんじゃ・・・?」*6 という疑念が湧いてくるので,ちょっとルドベキアを深掘りします。

正義の花言葉を持つルドベキアについて

 さて,このルドベキアという花ですが,厳密には属名で,ルドベキア属(オオハンゴンソウ属)の花の総称です。
 ただ,戦前にルドベキアの名前で栽培されていたものを和名でオオハンゴンソウと呼ぶようなので*7,ここでいうルドベキアオオハンゴンソウという種を指すということでよいと思います。


 そしてこのルドベキアことオオハンゴンソウをモチーフにした図柄を採用した組織があります。
 裁判所です。
 「裁判所制度100周年記念 5,000円銀貨幣」をオオハンゴンソウをモチーフに作っていて,花言葉で「公正・正義」を表すって言っちゃってます*8

図柄(表) 大法廷
図柄(裏) 大はんごん草 (キク科)と職員マーク:花言葉で公正、正義を表す
https://www.mint.go.jp/popup/data_kinen_page18.html

 裁判所もルドベキアが正義だと言っています。しかも弁護士バッジと同じ造幣局謹製です。


 「正義という花言葉を持ち,同じキク科で,似た花を咲かせるルドベキアとヒマワリとを混同したのではないか。」という仮説が真実味を帯びてきました。
 しかし,そんな簡単に混同するのでしょうか。しそうな気もしますが。

 

ルドベキアが向日葵の一種であるという文献

 今回,色々と調べていたところ,ルドベキアが向日葵の一種であるとする文献がありました。

長谷川泰 原譯『植物綱目』40頁,文部省,[1879]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1911253

之(註:第19綱第3目という分類)に属する者は向日葵なり 又「ルドベキア」「コレヲプシス」等の如く同形の花を開く者は即向日葵に属す

 これは「百科全書」という文献です。フランスの「百科全書派」が著した「百科全書」ではなく,1873年から日本の文部省が随時刊行したものです。
 イギリスの"Chambers’s Information for the People"という百科事典を翻訳したもので,かの箕作麟祥*9の差配のもと,作業が進められました。
 この「百科全書」の「植物綱目」という巻では,分類学の父と呼ばれるスウェーデンの学者カール・フォン・リンネの分類を紹介するものになっています。
 リンネは1753年に『植物の種』を著して植物を分類しています。これを踏襲した「百科全書」の「植物綱目」では,ルドベキアも向日葵に属するとされています*10
 ルドベキアは総称であるのにオオハンゴンソウという種そのものとよく混同されています。そうすると,(かつて)ルドベキアがひまわりの一種とされていたことから,ルドベキアとひまわりと混同してしまったとしてもやむを得ないように思われます。
 そして,この「百科全書」は丸善有隣堂などからも出版されており,本棚に飾る目的で当時の弁護士が購入していたことも容易に想像できます*11

結論

 以上から,「ひまわりが正義の象徴」とされる点については,「ルドベキア花言葉は『正義』とされていたところ,当時はルドベキアはひまわりの一種という考え方があり,見た目も似ていることから混同し,当時の弁護士がひまわりの花言葉が正義であるかのように誤認して,そんな事情も知らない昭和60年に日弁連が新たな解釈を付け加えてそれっぽく体裁を整えたので,誰も指摘しないまま今に至る」というのが限りなく真相に近いものと考えます。

補論

ルドベキアはどうして正義なの?

 ところで,ルドベキアが正義とされるのはどうしてでしょうか。
 ルドベキアという花の名前は,ルードベック親子(親子ともに学者)にちなんでいます。命名したのは,何を隠そう前掲カール・フォン・リンネその人です。リンネはルードベック親子の子の方であるオロフ・ルードベックに師事しており,それにあやかってルドベキアと名付けたようです*12
 そして,「ルードベックが研究に対して公正・誠実な態度であったことから,その名を持つルドベキア花言葉も正義とか公正とかになった」と言われています。ただ,スウェーデン語の文献を含め色々探しましたが根拠は見つかりませんでした。リンネがルードベック親子を称賛していたっぽいところまではたどり着いたのですが,研究に対する態度には特に言及してなかったんですよね。
 ただ,「公正・誠実」から「正義」への移行は,もともとfairness(公正・公平)だったのが伝聞や訳出を繰り返すうちに,いつしかjustice(公平・正義)になったと考えるとごく自然な流れだったと推察できます。
 なお,花言葉の流行に一役買った19世紀末のグリナウェイ著"Language of flowers"にもルドベキア花言葉はjusticeとあるので,日本で発生した謂われではないことまでは確実そうです。

https://archive.org/details/languageofflower00gree/page/36/mode/2up

 まあ,典拠不明ながらも,「名前の元になった研究者の研究態度が公正だった」というストーリーは,「太陽に向って明るく力強く咲くひまわりは,正義に輝く象徴で」とかいう意味不明な由来よりよっぽど合理的で納得できるように思います。

結びに代えて-本稿で最も伝えたかったこと

 ということで,弁護士たちは,結局のところ,ルドベキア,特にオオハンゴンソウを正義の象徴として持ち上げているわけです。
 しかし・・・

8 Rudbeckia laciniata(オオハンゴンソウ) 根
特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律施行令 別表第三 8項
https://laws.e-gov.go.jp/law/417CO0000000169/20230901_505CO0000000253

 このように,オオハンゴンソウは国から特定外来生物に指定されています*13
 特定外来生物を正義の象徴として持ち上げてる弁護士クソワロタwwwwwwwww

*1:「記事を書く」から下書きに飛べないのでnoteでやってたんですが・・・。

*2:https://www.hibiyakadan.com/lifestyle/z_0104/

*3:https://hanaprime.jp/language-flower/sunflower/

*4:https://minne.com/mag/articles/2743?srsltid=AfmBOoqnnYJwqBOnAWvVf08_t24hB28toEYRyZMekoVuz87M6koXPpMb

*5:「あなたを見つめる」「愛慕」「崇拝」「憧れ」あたりはギリシャ神話のクリュティエとアポロンの悲恋の話から来ていることは容易に理解できます。「偽りの富」「にせ金貨」はスペインによるペルー侵略の際に,ヒマワリを象った黄金の装飾品が奪われたやら,黄金に見えたが価値のないただのひまわりだったやらのエピソードがあるようで,それも理解はできます。

*6:前回までの調査ではこの勘違いの可能性のみを指摘するのに留まりましたが,以下はその後の調査により判明した事実です。

*7:日本花卉園芸協会 編『新花卉』(152)65頁,タキイ種苗出版部,1991-11. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1781501

*8:ご丁寧にも当時の文献で,「ルドベキア・ラシニアータ(※註:種としてのオオハンゴンソウの学名)」として種も確定してくれています。財務省 編『ファイナンス : 財務省広報誌』26(7)(299)39頁,財務省,日経印刷 ,1990-10. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2798644

*9:権利,義務,動産,不動産などの訳語を作り,constitutionを憲法と訳した人です。どうか名前の読み方も覚えてください。

*10:リンネの『植物の種』の原典(ラテン語)でも,ヒマワリ(helianthus)の次にルドベキア,その次にコレオプシスが来ています。https://www.biodiversitylibrary.org/page/358927#page/348/mode/1up

*11:ただ,昭和25年の段階でリンネの分類が維持されていたかどうかは分かりませんでした。現在ではキク科>キク亜科>ヒマワリ属,ルドベキア属と別々の属に分けられています。あるいは過去のものになっていた可能性もありますが,まあ弁護士だからいちいち調べなかったと思います(爆)。

*12:スウェーデン国立公文書館所蔵の文献があります。https://sok.riksarkivet.se/sbl/Presentation.aspx?id=6985

*13:なお,オオハンゴンソウ政令により特定外来生物に指定されたのは2005年12月14日(2006年2月1日施行)です。「表向きにヒマワリとしているのは特定外来生物が由来なのがバレると恥ずかしいから」という説は棄却されます。