はじめに
待ちに待った別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」(以下,「別冊判タ」「新版」などといいます。)が出ました!
当職などは平成23年11月頃から待望しておりました( http://twitter.com/uwaaaa/status/135658747174465537 )。
ということで,2回に分けて,新版のレビューをしようと思っております。
本当は「【12】図において,横断歩道に歩行者がいた場合の一時停止義務の根拠条文が,旧版では『法38条1項・2項』と誤っていたのが,新版では『法38条1項』と正しく直った」とかそういう細かいところまで見ていきたいところなんですが,そんなものに需要はないと思われますので(笑),
今回は,総論的に別冊判タ新版の改訂のポイントなんかを簡単に見ていきたいと思います。
別冊判タってそもそも何よ
一言で言うと,「交通事故の際の過失相殺率を決めるための参考文献」です。書いているのは東京地裁の交通事件の専門部(民事27部)の裁判官たちです。ですので,交通事故の過失相殺率について論ずる際にはほぼ必ず参照することになります。
類書も出てきましたが,東京地裁交通部の裁判官が書いているという権威もあって,交通事故を含む一般民事をやる弁護士でこの本を持っていない弁護士はいないのではないでしょうか。
この別冊判タが,10年ぶりに改訂されたとあって,色めき立っているというわけです。
ロー生・修習生の方は,弁護修習先のイソ弁に「最近の奴は別冊判タも知らないのかよ・・・。」とか言われないように,この部分だけでも理解して帰ってね!
改訂のポイント
新版の44頁以下に,「改訂のポイント」がまとめられていますが,簡単に整理して紹介します。
1 「歩行者と自転車との事故」の基準が作成されました。
これまでは,事故の件数が少ないとされ,基準は策定されてこなかった経緯がありますが,近年の事故の増加等から,新たに設けられることとなりました。
類書としては,「自転車事故過失相殺の分析―歩行者と自転車との事故・自転車同士の事故の裁判例」や「実務裁判例 交通事故における過失相殺率―自転車・駐車場事故を中心にして」等があります。併せてご参考まで。
2 「緊急自動車と四輪車との事故」類型が新設されました。
平成24年版の赤い本下巻でも取り上げられていましたが,この類型も追加されました。あ,赤い本というのは,これまた交通事故事件ではよく参照される本で,「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」のことをいいます。
3 「駐車場内の事故」の基準が新設されました。
商業施設の大型化・郊外立地が進み,駐車場内の事故が増えていることから,基準が設けられました。個人的にはコレが最もありがたい改訂です。
類書としては,「実務裁判例 交通事故における過失相殺率―自転車・駐車場事故を中心にして」などが挙げられます。併せて(略)
4 「自転車と四輪車・単車との事故」において,歩行者用信号の類型が新設されました。
平成19年の道路交通法改正に伴い,同法施行令が改正され,横断歩道を進行しようとする足踏式自転車は,歩行者用信号に従うことが義務付けられました。それに対応した形の類型が新設されました。
5 一部の事故類型で,基本割合・修正率が変更になりました。
新版44頁以下にも大きな変更点は触れてありますが,まったくコメントされることなく変わっている部分も多くあります。次回は,その辺を含めてフォローしていきたいと思います。
6 「高速道路上の事故」において,追突事故の類型が細分化されました。
従前は,本線車道等に駐停車中の自動車に対する追突事故について,駐停車自動車の過失を問わない基準でしたが,過失の有無によって細分化されました。
番号対応表
別冊判タには,墨付きカッコ(コレ→【】)で括られた番号が各図ごとに振られており,頁数ではなく,その番号で図を特定する慣習があります(よね?)。
今回,項目が増えたので,番号にズレが生じました。
その対応表を作ってくれと某先生からリクエストがありましたので作成してみました。エクセルがそのまま張れれば便利でしたが,とりあえずはてな記法で記述しました。
第1章 歩行者と四輪車・単車との事故
全訂4版 | 全訂5版 | 備考 |
---|---|---|
【1】~【50】 | 【1】~【50】 | そのまま |
第2章 歩行者と自転車との事故
全訂4版 | 全訂5版 | 備考 |
---|---|---|
(なし) | 【51】~【97】 | 章ごと新設 |
第3章 四輪車同士の事故
全訂4版 | 全訂5版 | 備考 |
---|---|---|
【51】~【110】 | 【98】~【157】 | 47を足す |
(なし) | 【158】~【159】 | 緊急自動車の類型が新設 |
第4章 単車と四輪車との事故
全訂4版 | 全訂5版 | 備考 |
---|---|---|
【111】~【185】 | 【160】~【234】 | 49を足す |
第5章 自転車と四輪車・単車との事故
全訂4版 | 全訂5版 | 備考 |
---|---|---|
【186】~【242】 | 【235】~【291】 | 49を足す |
(なし) | 【292】~【298】 | 歩行者用信号に関する追加 |
【243】~【254】 | 【299】~【310】 | 56を足す |
第6章 高速道路上の事故
全訂4版 | 全訂5版 | 備考 |
---|---|---|
【255】~【263】 | 【311】~【319】 | 56を足す |
【264】~【266】 | 【320】~【325】 | 追突事故について,過失の有無で類型を分けたので,3類型が6類型に増加した |
【267】~【333】 | 【327】~【333】 | 60を足す |
第7章 駐車場内の事故
全訂4版 | 全訂5版 | 備考 |
---|---|---|
(なし) | 【334】~【338】 | 章ごと新設 |
まとめ
総論的に簡単にまとめてみました。
次回は各論的に,どの類型でどのような変更があったのか等について見ていきます。結構ボリュームがありそうなので,3回に分けてお送りするかも知れません(現段階で第4章まで見終わってます。)。