刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

大阪府警の体質を物語る「阪神タイガースファン暴行事件」のご紹介~富田林署の件によせて

はじめに

 富田林警察署において,弁護人接見後に,被告人が逃亡したという事案が話題となっています。
 弁護士の立場からすると,「警察が悪い。」以外のコメントがしにくいところです。しかしながら,警察発表のコメントを鵜呑みにして,警察を擁護し,弁護人サイドを非難する声も聞かれます。
 この問題は,いろいろな切り口で論じられていますが,ここでは「大阪府警の体質」という切り口から見ていきたいと思います。
 今回,問題が起きたのは大阪府警の富田林警察署です。大阪府警の体質を知るのに好適な裁判例があるので,ご紹介いたします。このような大阪府警にある警察署の言い分を,しかも,センサーから電池を抜くような手落ちをするような人たちの話を丸呑みすることが適切かどうかのご参考にしていただければなと思います。

阪神タイガースファン暴行事件」はどんな事案かというと

 1985(昭和60)年の阪神タイガース日本シリーズ優勝を祝って連日繰り広げられた騒ぎに伴って発生した違法事犯との関連の取り調べをするため,警察官である被告人が被害者を任意同行の上,警察署内において正座を命じたがこれを拒んだことに立腹して暴行を加えた事件。なお,検察官が不起訴とした特定の罪名(公務員犯罪等)の事件につき審判をすることを求める,「付審判請求」がなされている事案です。
 原審が大阪地判決平成5年4月27日判例タイムズ842号210頁,第2審が大阪高判平成6年8月31日判例タイムズ864号274頁です。「阪神タイガースファン暴行事件」というおもしろ事件名が付けられています。

本事例で認定された罪となるべき事実

 被告人は,大阪府巡査として大阪府曽根崎警察署に勤務し,警察官の職務を行っていたものであるが,昭和六〇年一一月四日午後一〇時五〇分ころから同日午後一一時一〇分ころまでの間に,大阪市北区曽根崎二丁目一六番一四号所在の大阪府曽根崎警察署六階会議室において,職務として,甲(当時一八歳)外一名に対し,プロ野球球団阪神タイガース日本シリーズ優勝を祝って大阪市北区梅田周辺等の街頭で連日繰り広げられていたファンの集団的祝勝騒ぎを助長する行為を戒め,騒ぎに伴って発生した不法事犯との関連についての事情聴取を行うに際し,同僚警察官と共に,右甲外一名に正座するように命じたが,甲が,膝に怪我をしているので正座することができないとしてこれを拒んだことに立腹し,右平手で甲の左側頭部を殴打する暴行を加え,よって,甲に対し,加療約一四日間を要する左外傷性鼓膜穿孔の傷害を負わせた。

 以上の事実につき,原審も,第2審も【特別公務員暴行陵虐罪】の成立を認めました。

ところで特別公務員暴行陵虐罪って何?

刑法195条
 裁判,検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が,その職務を行うに当たり,被告人,被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは,7年以下の懲役又は禁錮に処する。
2 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも,前項と同様とする。

 簡単にいうと,警察官が職務を行うのに当たって,捜査対象者等に暴行等を加えた場合の罪です。
 今回は暴行類型ですが,陵辱・加虐類型の事案も当然にあります。留置場内において,看守が食器口から陰茎を差し入れ,被留置者(女性)がこれを口淫するなどした東京高判平成15年1月29日判例時報1835号157頁等です(本稿は真面目記事なので,このAVまがい事案の詳細は各自調べてくださいね!)。

何が警察の体質を示しているの?

 上述のとおり,第1審も第2審も有罪判決(懲役8ヶ月,執行猶予3年)が言い渡されました。
 本件では,警察官である被告人と,任意同行を求められた被害者との間で,供述が真っ向から食い違いました。被告人の供述を補強するため,被告人の同僚も証言を積み重ねました。しかし,裁判所は,「被告人の弁解及びこれに沿う被告人の同僚警察官らの証言が信用し得ないものであることは・・・もはや明らか」として,被告人の供述の信用性を否定しました。
 これらの事実を元に,裁判所が量刑の理由で述べている事実を紹介します。注目ポイントを強調しました。

 本件は,犯行そのものが,権力をかさにきた許しがたいものであるばかりでなく,同僚警察官らがそろって,被告人の弁解に合せて到底信用しがたい証言に固執するなど周辺の状況にも遺憾というほかないところがある。(原審)

 それにもかかわらず,被告人は,信用し難い弁解に終始し,被害者に対する慰謝の措置はもとより謝罪すらしていないなど,本件についての反省の態度が見られないといわざるをえない。これらの事情を総合すると,被告人の刑事責任は重いというべきである。また,被告人の同僚警察官らが,揃って被告人の弁解に合せて信用し難い証言をしたほか,かかる事犯に対しては,より厳正な対応が必要であるにもかかわらず,曽根崎警察署の幹部らも,本件捜査に非協力的な態度をとるなど,警察組織を挙げて被告人を庇っている様子がうかがわれることはまことに遺憾である。(第2審)

 被告人は,平素は警察官として真面目に勤務しており,本件後は,再三部内表彰を受け,地域のボランティア活動にも積極的に参加するなどしているところ,表彰は,本件で被告人が告訴されたことを意識してなされているのではないかとの疑いを禁じえないところではあるが,表彰をする以上,それなりの勤務をしていることも否定できないと考えられ,そうであれば,被告人は,本件についての反省の態度が見られないとはいえ,自己の行為が警察に対する市民の信頼を裏切ったことを自覚し,勤務に精勤することで償おうとしていると認められる(第2審)

 所論は,被告人が失職しても,過去の例に照らすと,大阪府警察本部は,被告人が本件犯行をしたことを認めず,その外郭団体に被告人を雇用させ,執行猶予期間満了後は,元の階級のまま再雇用するなど,全面的に支援することが予想されるから,被告人の失職が予想されても,それを社会的制裁として重視することは相当でない旨主張するのであるが,仮に所論のとおりであるとしても,それは,大阪府警察本部が行うことであって,一司法巡査に過ぎない被告人が,その意思によって,組織を動かして,そのような措置を講じるわけではなく,大阪府警察本部が,所論のような措置を講じるとすれば,本件刑事手続きとは別の場において,その是非を論じるべきであって,右のような予想を基に,被告人個人の刑事責任を論じるのは相当でない。(第2審)

 私はこの裁判例を「阪神タイガース」で検索して発見したのですが,この最後の引用部分を見て愕然としました。

まとめに代えて

 大きな組織を運営している以上,不祥事が起こることは不可避です。特に,警察官はその強い正義感から,いきおい暴走しかねない存在でもあります。だからこそ,個別の不祥事については,その責任を正面から受け止め,再発を防ぐ態勢を構築していくことが組織としての責務であると思います。
 しかしながら,この裁判例から見えてくる大阪府警の姿は,組織を挙げて不祥事を不祥事と認めず,保身のためには手段を選ばない集団という醜いものでした。事件から30年以上が経過しているので,その体質が変わっている可能性もありますが,「大阪府警 不祥事」でぐぐると,「大阪府警 不祥事 多い」がサジェスチョンされる状況で,体質が大きく変わったとは到底思えません。
 富田林署の事案についてはいろいろな評価があると思いますが,少なくとも,大阪府警サイドが発表するコメントは,これらの事情を考慮した上で聞いていただきたいなと思います。