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刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」レビュー(2)

はじめに

 ということで別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」(以下,「新版」などといいます。)についての改訂のポイントをお伝えするレビュー記事の第2弾です。前後編とか言っていましたが,第3弾までやることが今決定しました。
 前回は改訂ポイントをざっと粗掴みしていただきましたが,今回は具体的な中身に入っていこうかと思います。
 前回も述べたとおり,新版の44頁以下に「改訂のポイント」が掲載されていますが,そこから漏れている重要な改訂ポイントも多くあります。そういった部分も含めて紹介できればいいなと考えています。
 以下,【●●】は新版(全訂5版)の図番号,[●●]は旧版(全訂4版)の図番号と表記させていただきます。

形式面の変更点

  • 過失相殺率のフォントの変更(言及なし。)

 旧版では「Times New Roman」っぽいフォントでしたが,新版では明朝っぽいフォントに変わっています。
 「Times New Roman」にアレルギーをお持ちの先生もおられると聞き及んでおりますので,これは(どうでも)いい改訂点かと。

  • 脚注がページ内で完結するようになった(言及なし。)

 旧版では,脚注の丸付き数字がページをまたいでも持ち越しになっているケースがままありました。たとえば,[19]では,54まで脚注の数字が伸びていました。
 新版では,脚注の丸付き数字はページ内で完結するようになりました。分かりやすくなりましたね。しかしこんなことまで指摘するとは我ながら細かすぎる。

「第1章 歩行者と四輪車・単車との事故」の変更点

  • 【20】[20]の脚注に記載が追加されました。

 この図は,「信号機が設置されていない横断歩道上の事故」を示しています。その脚注に記載が追加されています。
 具体的には,「横断歩道に信号機が設置されていたとしても,その表示が赤点滅ないし黄点滅の場合には,本基準が適用される」というものです。このとき,車両の方の信号の色は問わないという点に注意が必要です。
 この記載は,旧版にも前注に書かれていましたが,分かりやすく【20】にも記載することとなったようです。

  • 【22】[22]及び【31】[31]の修正要素に変更があります。

旧版では,修正要素のうち,「幹線道路」と「直前直後横断 佇立・後退」がそれぞれ歩行者側に+10%の修正となっておりましたが,それぞれ歩行者側に+5%の修正に改められました。
この限りにおいて,歩行者側に有利・四輪車及び単車側に不利な改訂ということになります。
なお,新版44頁では,「バランスの観点から」変更したとされています。また,新版60頁,61頁によれば,「基本の過失相殺率の多寡に応じて修正を施した」としています。

  • 【40】[40]の脚注に変更があります。(言及なし)

 この図は,「歩車道の区別のある道路における事故」の「車道における事故 車道通行が許されている場合」です。歩道が堆積土で埋まっている場合に車道にはみ出すような場合です。
 脚注の①中では「ここでも車道側端の事故を想定している」と記載されています。しかし,それ以外の場合についての言及が違います。
 [40]では,「[41]が適用される。」と断言しています。
 他方,【40】では,「【42】を参考にして適切な過失相殺率を求めるべきである。」としています。
 【41】[41]をみると,「車道における事故 車道通行が許されていない場合」における「車道側端の場合」となっています。他方,【42】[42]は「車道側端以外の場合」となっています。そう考えると,「車道側端以外の場合を論ずるのに,車道側端の場合の基準を参照するようにしている」点で,旧版の見解が明らかに間違いだったように思われます。
 なお,このことは基準が変更になった旨の明確な記載はありません。上記のとおり,明らかな間違いなので認めにくいのかな?

「第2章 歩行者と自転車との事故」について

 は,新しく創設されたので変更点とかはありません。
 個人的には,歩行者と自転車との事故の場合,過失割合よりも,保険の有無・資力の方が大問題なんじゃないかなと思わなくもありません。

「第3章 四輪車同士の事故」について

  • 大型車修正についての考え方が変わりました。

  旧版では,たとえば[54]のように,当事車両の一方が大型車だった場合,±5%の修正が付いていました。
  新版では,個別の図では大型車修正を廃止しましたが,前注(203頁)以下で縷々見解が述べられています。
すなわち,「大型車による修正のあるものとないものとがあり,必ずしも統一がとれていなかったこと」,「大型車であることと事故発生の危険性に関連がない場合にまで大型車であることのみを理由に一律に修正要素とすることは妥当ではない」こと等を理由としています。その上で,具体的な事例を挙げて,5%程度の修正が必要な場合,不要な場合を論じています。
 厳しいことを言うと,この改訂については個人的にはあまり好ましくないと思っています。脚注番号をページ内で完結したり,参照事項を繰り返し記載するなど,「その図だけを見ればすべて分かる」という編集方針なのにも関わらず,このように前注にだけちょろっと書かれていると,見落としてしまう可能性が飛躍的に上がると思われるからです。
 ・・・と思っていたところ,関係しそうな図では脚注に「前注を参照せよ」と記載がありました。でも,大型車修正について記載がない頁もありましたので,上記の批判は外れてはいないと思います。

  • 【109】[62]の基本割合が変更されました。

 信号機のある交差点での事故での,いわゆる右直事故(右折車と直進車の事故)の類型です。この図は互いの信号が黄色だった場合です。
[62]の直進車5:右折車5が,【109】で直進車4:右折車6となりました。
 旧版では双方赤信号の場合と同じ基本割合だったので,確かに違和感はありました。
 右直事故は非常に多い事故類型で,黄色信号同士というのもよくあるパターンなので,実務への影響も大きそうです。

  • 【120】[73]の修正要素が追加されました。(言及なし。)

 「B一時停止後進入」という修正要素が追加されました。つづく【121】[74]【122】[75]では同様の「一時停止後進入」の修正要素が設けられていることから,平仄を合わせたものと思われます。というか,なぜなかったのかよく分かりません。

  • 【136】[89]の基本割合が実質的に変更されました。

 ふんわりいうと,「右折車とそれを追い越そうとした直進車との事故で,追越しが禁止されない交差点の場合」の図です。
[89]では,右折車について,あらかじめ中央に寄らない右折をしていたことが修正要素になっていました。しかし,他方で,脚注には,「右折車が道路の中央又は右側端に寄って通行しているときは,[88]と同様に解する」とされていました。そうすると,旧版の見解では,「あらかじめ中央に寄らない右折」以外のケースは想定していなかったことになります。これはちょっとヘンです。
そこで【136】では事故類型から見直して,「追い越し車両が道路の中央を越えた場合であって,右折車があらかじめ中央に寄らない右折をしている場合」の図ということに改めました。
  基本過失割合は[89]も【136】も5:5なので,表面的には何も変わっていないように思われますが,上記のとおり,修正要素を取り込んで基本割合を評価しているので,実質的には,後続直進車に不利な改正となっています。
  ところで,この項,本当に分かりづらくなっています。新版の階層構造としては以下のとおりです。

第1 右(左)折車と後続直進車との事故
 1 右折車と越直進車との事故(追い越し直進車が道路中央をはみ出した場合)
  ア 追い越しが禁止される普通の交差点の場合
  イ 追い越しが禁止されない交差点の場合
 2 あらかじめ中央(左端)に寄らない右(左)折車と後続直進車との事故(後続直進車が道路中央をはみ出していない場合)
  ア 道路中央(左端)に寄るのに支障がない場合
  イ 道路中央(左端)によっては右(左)折できない場合

 それぞれとアとイは対応しているんですが,1と2とがまったく対応していないのでとても分かりにくいです。「●●な場合」という基準があれば,当然に「●●でない場合」が来ると思うはずです。しかしながら,そういう対応関係にはなっていません。タネを明かすと1と2で漏れる部分については準用しなさいと脚注に書いてあるのですが,それを理解するのには骨が折れます。
 また,そもそも,「追い越しが禁止されない交差点」と回りくどいことを言っていますが,これは要するに優先道路内の交差点のことです。ならそういえばいいのに・・・。
これを分かりやすく図示すると以下のようになります。

第1 右折車と追越直進車との事故
1 普通の交差点の場合
  ア 道路中央をはみ出した場合
   a あらかじめ中央に寄っている右折の場合	【135】の基本どおり
   b あらかじめ中央に寄らない右折の場合	【135】を基本から修正
  イ 道路中央をはみ出していない場合
   a あらかじめ中央に寄らない右折の場合	【137】【138】を準用
   b あらかじめ中央に寄っている右折の場合	(ただの追突)
 2 優先道路内の交差点の場合
  ア 道路中央をはみ出した場合
   a あらかじめ中央に寄っている右折の場合	【135】と同視しうる
   b あらかじめ中央に寄らない右折の場合	【136】の基本どおり
  イ 道路中央をはみ出していない場合
   a あらかじめ中央に寄らない右折の場合	【137】【138】を準用
   b あらかじめ中央に寄っている右折の場合	(ただの追突)
第2 右(左)折車と後続直進車との事故
 1 道路中央等をはみ出していない場合
  ア 道路中央等に寄るのに支障がない場合	【137】の基本どおり
  イ 道路中央等に寄っては右折できない場合	【138】の基本どおり
 2 道路中央等をはみ出している場合		(追い越しの場合と同視しうる?)

 こうすると対応関係が分かりやすくなります。「第2 2」の場合の記載が新版でも漏れているような気がしますが,追い越しの場合とパラレルに考えるのが自然でしょう。

「第4章 単車と四輪車との事故」について

 新版46頁には「他の章の改訂に併せて所要の改訂をした。」とだけありますがコメントなく色々変わっています。

  • 【179】[130]【180】[131]の基本割合が変わりました。

  【109】で述べたことがそのまま当てはまるため,過失割合に変更があります。具体的には,双方車両が黄色信号で進入した場合,単車が直進・四輪車が右折の場合は,単車3:四輪車7。単車が右折・四輪車が直進の場合は,単車5:四輪車5。旧版ではどちらも単車4:四輪車6でした。

 ・【202】[153]の修正要素に変更があります。(言及なし)
  「右折車徐行なし」という修正要素が,旧版では「*」,つまり考慮しな意琴とされていたところ,新版では「-10」となりました。
  旧版でも,なぜか[153]だけ「右折車徐行なし」が「*」になっていたので,平仄を合わせたものと思われます。他の章と併せたわけじゃねーじゃん。

  • 【213】~【216】[164]~[167]の修正要素に変更があります。(言及なし)

 左折する四輪車が直進する単車をひっかけてしまったケースです。
 旧版では,なぜか単車側の著しい過失・重過失が修正要素となっていませんでした。また,四輪車側も[164]と[165]についてだけ,「その他の著しい過失」という修正要素とな2っていました。
 これを改め,互いの著しい過失・重過失をすべて修正要素としようとする改訂です。旧版の記述がまかりとおっていたのがよく分かりません。こんな感じでコメントせずに改訂されている部分は,やましい部分ということが徐々に分かってきましたね・・・。

  • 【228】[179]の修正要素に変更があります。(言及なし)

 前方を走る単車が特に危険でもないのに急ブレーキをかけた場合の図です。
 「被追突車の幹線道路の走行車線上停止」について,単車側への修正が旧版の+10から,+15に微増しています。コメントなし。

おわりに

 ということで今回は,第1章から第4章までの変更点を見てきました。
 大きく変わったという部分はありませんが,地味に変わっている部分が多い印象があります。こういう細かい部分について注意しつつ,別冊判タを活用したいものですね。
 次回は,残りの部分と,総括と,それから新しく出来た類型についてのコメントができればしようと思っています。