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刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

我が国の罰金の最高額について

はじめに

 平成29年4月16日に放映された「さまぁ~ずの神ギ問」という番組で,「罰金の最高額は?」という疑問が紹介されていました*1。惜しくもグ問となり,テレビでは調査されませんでしたが,テロップで「『罰金 最高額』で検索」と案内がありました。
www.fujitv.co.jp
 しかし,『罰金 最高額』で検索しても,誤った情報しか出てきません*2。そこで,改めて,我が国の罰金の最高額について解説していきます*3
 以下,本記事は平成29年4月21日現在の法令に基づきます。

罰金とは

 一定額の金銭を徴収することを内容とする刑罰です。基本的には重大な事案であるほど高額となります。
 また,個人(自然人)のみならず,法人にも科されることがあります。法人には生命を奪う死刑や自由を奪う懲役刑等を科すことはできませんので,法人が処罰される場合は罰金刑が科されることとなります。法人の場合,経済規模が大きいことから,自然人の罰金額よりも高額になることが多くなっています。

最も高い罰金を定める法律は?

 罰金を科す法律には,具体的な多額を示す場合(「○○万円以下の罰金に処する。」)とそれ以外とがあります。
 具体的な多額を示すものでは,不正競争防止法22条1項2号で,「十億円以下の罰金刑」が定められています。クッソ高いですが,これは法人に対するものです。法人の関係者が,法人の業務に関連して営業秘密を海外で使用する目的で奪うような事案に科されるもので,要は産業スパイに備えた規定です。平成27年の同法改正で導入されました*4。ということでやはり法人に対する罰金は超高いです。
 自然人に対して具体的な多額を示すものでは,「三千万円以下の罰金」というのが最も高額です。先の不正競争防止法の規定が適用されると,法人の関係者個人に科されるのは三千万円以下の罰金です(同法21条3項)*5。このほか,貸金業法出資法金融商品取引法等の金融関係の犯罪や,銃刀法,武器等製造法等の犯罪,そしてなぜか,外国人漁業の規制に関する法律や排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律等,密漁に関する取締法規でも個人に対して三千万円以下の罰金を科しています。それだけ密漁は美味しいか,海洋国家として守るべき要請が強いということなのでしょうか。
 じゃあそれ以外って何よという話なんですが,条文を見ていただいた方が早いです。

所得税法238条2項
 前項の免れた所得税の額又は同項の還付を受けた所得税の額が千万円を超えるときは、情状により、同項の罰金は、千万円を超えその免れた所得税の額又は還付を受けた所得税の額に相当する金額以下とすることができる。

 簡単にいうと,「脱税した場合,罰金額はその脱税した額以下まで科することができる。」というものです。ですので,脱税額に応じて青天井ということになります。このような規定は各種の税法にも存在します。納税の義務に対するサンクションとしてはこのくらいまでしないとダメなのでしょうね。
 所得税法は自然人にも法人にも適用されるので,自然人・法人を問わず,罰金額の法定刑は青天井ということが分かります。*6

実際に科された罰金額の最高額は?

 では,実際に科された罰金額の最高額についてはどうでしょうか*7
 まず,自然人部門です。熊本地裁昭和53年11月8日判決(判時914号23頁)があります。

主文
『被告人を懲役三年および罰金七億円に処する。』

 いわゆる天下一家の会ねずみ講)事件。所得税を脱税したとして所得税法違反に問われた事例です。脱税額は約20億円ですので,最悪20億円の罰金もあり得た事案というわけで,まさに青天井。本件を巡っては,ねずみ講を行っていた事業が権利能力なき社団であるか個人事業であるかが争点となり最高裁まで争われましたが,個人事業であることを前提とする判断が維持されたようです。
 なお,検察側は,本件について詐欺罪及び出資法違反での立件は断念しています。そのため,「無限連鎖講の防止に関する法律」が出来たという曰く付きの裁判例なのです。当然ですが,遡及処罰の禁止が働くため本件には同法の適用はありません。

 次に,法人部門です。東京地裁平成5年3月12日判決(税務訴訟資料226号3281頁)があります。

主文
『被告会社株式会社《乙1》を罰金九億円に,被告人《乙2》を懲役四年にそれぞれ処する。』

 法人税を脱税したという事案です。その脱税額は驚きの32億円!
 これが現時点で判明している最も高額な罰金刑が科された事例です*8

こうして神グ問の答えが導き出された

 法定刑として具体的な数字を定めるものでは,法人では不正競争防止法22条1項1号の「10億円以下の罰金」が最高。自然人では同じく不正競争防止法21条3項等の「三千万円以下の罰金」が最高。ただ,具体的な数字を定めずに,所得税法238条2項等では「情状により、同項の罰金は、千万円を超えその免れた所得税の額又は還付を受けた所得税の額に相当する金額以下とすることができる。」とされており,実質的には脱税した税金額次第で罰金の額は青天井となる。 
 実際に科されたものでは,自然人では所得税を脱税して7億円,法人では法人税を脱税して9億円の罰金が科された事案が公刊されている。

リサーチ方法について

 筆者は以下の記事に,実際に科された高額な罰金刑のリサーチ方法についてまとめています。
判例検索の世界への招待」http://www.kanto-ba.org/column/2014/07/post-13.html

*1:この番組,正当防衛の成否について取り上げられたりと,法律関係の疑問も頻繁に登場します。

*2:正当防衛の回に出てきた鉄腕なセンセイがドヤ顔で語ってるサイトもありますが,間違っています・・・。

*3:なお,本稿は,当職編の大嘘判例八百選Ⅱ[総集編]所収の「罰金判例百選」を下敷きに書いています。

*4:「罰金 最高額」で検索すると引っ掛かるサイトではことごとくこれを看過しています。

*5:自然人に対するものは今回初めて調べました。「万円以下の罰金に」という文字列で法令検索しています。

*6:具体的な多額を定めた条文を見てきたのは何だったのか状態ですが。

*7:「罰金 最高額」で検索して出てくるサイトでは,法定刑について述べるだけで,実際に言い渡された罰金刑を論ずるものは不見当でした。

*8:主要な判例検索システムを叩いてもこれ以上の事案は不見当です。高額な脱税案件であれば各種文献等にも紹介されるはずで,判例検索システムにも情報が出回ると思われますので,おそらくこれ以上の案件はないと思われます。