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刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

判例集判例百選

はじめに

 きょう,『著作権判例百選』が著作権侵害を理由とした出版差し止め仮処分を受けたという面白法学ニュースがありました。www3.nhk.or.jp
 著作権を論ずる書物の著作権が問題になるという意味では,非法曹にとっても分かりやすい面白さがありました。
 ところで,当職は『大嘘判例八百選』という何らかの知的財産権を侵害していると言われても文句の言えない同人誌を出しております。
 その第2版で『判例判例百選』という企画をやりました。判例集が問題となった判例を集めたものです。
 こんなニュースがあって時期的にPV稼げそうだし,Webで全文公開することにしました。

序文

 文字どおり,判例を一定のポリシーに基づいて収集して公刊されるものが「判例集」である。本書も「判例集」の代表格である「判例百選」シリーズのオマージュとなっており,本書を手に取るような法学趣味の読者諸兄にはわざわざ説明するまでもなかろう。
 しかし,その「判例集」自体も,生の事件を発行者が取捨選択して掲載しているものである以上,法的紛争とは決して無縁ではないのであった。
 ここでは,「判例集」やそれに類するものが登場する裁判例を収集してみた。「判例集」を巡るドラマに思いを馳せてみるのもいいかも知れない。

東京地裁平成3年3月29日判決(判時1399号98頁)
 本裁判例は多数の判示事項を含むが,本百選の趣旨との関係では,「死刑判決を受けた未決拘禁者に対する図書閲読の不許可処分が適法とされた事例」である。
 問題となった不許可処分とは,「死刑判決を受けた未決拘禁者に対して,「別冊ジュリストNo82・刑法判例百選 総論(第2版)」を差し入れたところ,東京拘置所長がその中の「死刑の執行方法」と題する判例解説の部分の抹消に同意しなければ閲読を許さない旨告知したが,未決拘禁者が同意しなかったため,同書を弁護人に郵送した。」という措置である。
 判示によれば,大要,死刑の執行方法の記載された判例百選を閲読した場合,極度の精神的不安定状態に陥り,自殺,自傷行為に出る危険や逃亡を企て又は獄中,獄外の死刑反対運動等を激化させる等の危険性が高いものと推測され,勾留目的が阻害されあるいは監獄内の規律及び秩序の維持上障害が生ずる相当の蓋然性があるとして,閲読の不許可処分を適法とした。また,被告人の防御権の見地からも,必要不可欠でないとも判示した。
 なお,「死刑の執行方法」という判例の解説を行っているのは,第6版まで出版されている「刑法判例百選」の中では第2版のみである。第2版は他にも「無期懲役刑の合憲性」など,他の版では取り上げなかった判例も数多く取り上げており,編集方針が特徴的である。図書館等にあれば読んでみるのも面白いだろう。図書館等にない場合は,判例秘書を利用して判例百選DVDを検索するとよい(ステマ)。

特許庁平成14年3月1日審決(審判1998-9723)
 「判例体系」という商標(指定商品は補正後「加除式の判例集」とされた。)につき登録拒絶査定に対して不服を申し立てたところ,特許庁が原査定を取消し,同商標を登録すべきとした事例。
 原査定においては,商品の品質(内容)を表示するにすぎないものとされていた。しかし,本審決は,「加除式の判例集」は定期刊行物に類するもので,それに使用される題号は内容表示として捉えられるというよりは,むしろ,当該出版業者に係る著作物の出所識別の表示としての機能を有するものと判断するのが相当として,本願商標を登録すべきと判断した。
 なお,せっかくなので「判例」という文字列を含む商標を本項の末尾にまとめてみたので参考にされたい(註:表を貼り付けるのが面倒なので省略しました^^)。

  • 【リーガルベース】(ですかねえ?)

東京地裁平成14年7月29日判決(判タ1105号160頁)
 判例データベースをCD-ROMで提供している業者原告が,被告に対してデータベースの使用を認めるとの本件契約を締結し,被告は顧客にデータベースを使用させて利益を得ていた。しかし,原告と被告との間で確執が生じ,本件契約は解除されるに至った。対抗手段として,被告は,顧客全員に対して自社で開発した別のデータベースを案内したところ,顧客のほぼ全員が別のデータベースに乗り換えたという事案。
 本件契約の解釈と,別のデータベースに乗り換えさせた行為が債権侵害に当たるかが争点である。本稿では争点にまで踏み込む紙幅がないので割愛する。
 余談であるが,判例秘書上で本件裁判例を表示させると,「判例データべーろ」「裁判玉裁判官」というおもしろ文字列が見つかるので,好事家のために併せて紹介したい。また,被告代理人の筆頭が,かの倉田卓次氏であることも付言する。倉田氏は意外と色々な判例に顔を出しているので,そういうオリジナル判例集を作ってみるのも面白いかも知れませんね(他力本願)。

  • 【交通事故民事裁判例集】

長野地裁飯田支部平成元年2月8日判決(判タ704号240頁)
 原告は保険金請求事件の別訴を提起していたが敗訴した。その裁判例を交通事故民事裁判例集が実名で取り上げ,「保険金詐欺事件」という項目に収録したこと等が原告の名誉を毀損したとして損害賠償を求めた事案につき,原告の請求を棄却したという事例。
 「判決が不法不当な目的に供されるとか,当事者等のプライバシーを必要以上に侵す目的もしくは方法によるなど特別の事情の存しない限り,判決の公表が直ちに当事者等の名誉・信用を侵害するものではないと解するのが相当である。」
 裁判例の公表が名誉毀損・プライバシー侵害等に当たるかどうかのリーディングケースである。もっとも,「交通事故民事裁判例集」という,交通事故の取扱いが多い弁護士でもなければ目にしないような文献である点で特色がある。

さいたま地裁平成23年1月26日判決(判タ1346号185頁)
 判例時報に掲載された判決文中に当事者名が実名のまま表示されていたことについて,プライバシー侵害による不法行為は成立しないとされた事例。
『被告による本件各掲載行為の目的は,判決文を紹介することにより法曹界の学問的資料を提供することであって,公益性があり,また,掲載態様に関しても,原告の請求が認められた事例として別件各判決文をそのまま掲載したに過ぎないものであり,原告が別件訴訟を提起したことを暴露したり批判の対象とすることを目的としていないことは明らかである。本件各雑誌は法律専門誌であって,一般人が見る機会は新聞やインターネットに比べて低く,開示の相手方はある程度限定されているといえる。』
 以上2件の裁判例は,判例集が判決文を掲載するにあたり,匿名処理をするかどうかにつき一石を投じたものである。いずれも請求が棄却されているものの,同種の請求があり得ることから,基本的には,特に一般私人の場合には実名での掲載は今後見込めないのではないかと思われる。
 労働事件等において,和解を試みる場合,「判決にまで行っちゃって万が一敗訴ってことになれば御社の名前が事件の名前になって『○○事件』とか言われちゃいますよ・・・。」などと説得するという手法が紹介されることがある(たとえば「民事弁護ガイドブック」205頁)が,本件との関係では通用しなくなる可能性もある。
 なお,問題とされている判例時報は,1857号(一審),1887号(二審)であるが,本裁判例自体は,判例時報誌上では紹介されていないようである。

  • 【???】

大阪地裁平成3年11月27日判決(判時1411号104頁)
 近畿大学(?)法学部で無体財産権法を専攻する教授である原告が判例データベースを作成していて,被告会社らが同データベースについて独占的販売契約を締結したところ,同データベースが収録する判例件数の点で争いが生じてしまった。そこでそれぞれ違約金を請求し合ったという事案。
 本項との関係では,判例データベースの著作物性について争いなく認められている点が興味深い。曰く,判例データリスト及びオンライン方式のデータベースは編集著作物として,判例抄録及び判例論評(コメント)は学術の範囲に属する創作的表現物であるとして,それぞれ著作物性を認めている。
 なお,被告会社らが実名なのに,判例データベースの名前や教授の特定には至らず。残念。・・・ってこういうことをする奴が出てくるから匿名処理するんですよね・・・。