刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

お前ら「遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)」ってちゃんと書けよ

はじめに

 兄弟姉妹を除く相続人には,「遺留分」という,遺贈(遺言によって権利を譲ること)によっても奪われない固有の相続権があります(民法1028条)。
 これを侵害されるような遺贈があった場合には,遺留分権者は,遺留分が侵害されている限度でその減殺を請求することができます(民法1031条)。
 これを「遺留分減殺請求」といいます。通常,「遺留分減殺請求」と書き,「いりゅうぶんげんさいせいきゅう」と読みます。


 しかし,コレが非常に間違えやすい。普段聞き慣れない言葉なだけに,一般の方では正確に言える方が珍しいかも知れません。
 一般の方だけならいいんですが,専門家のHPなんかでも誤字が多いんですよ。士業なのにずっと間違えていたの・・・? みたいな事例があります。
 民法の中でも家族法という,試験にはあまり出ない分野の問題なので,あまり勉強されておられない先生が多いのかなあとみています。
 もっとも,専門家自身は間違えていなくとも,OCRが誤読しちゃっていたり,HP製作業者が間違えたりしているケースも少なくないとは思うんですが,それをそのままHPに載せちゃうのは,原稿ノーチェックであることを公表しちゃうようで芳しくありません。
 そんな感じで,専門家のHPから,「遺留分減殺請求」の誤字を集めてみました。
 あ,あと,運営主体がよく分からないサイト(ページ下部に葬儀後に必要な届け出と手続き All Rights Reserved.とだけ書いてあるページとか)が大量に発見されて,それはそれで非弁警察的には面白かったのですが,他日を期しましょう。

滅殺ケース

236236+PPPで発動するスーパーコンボなサイトです。
遺留分滅殺請求拳」はレベル3で発動されるとガード不可なのでスーパーウリアッ上で回避しようぜっ


遺留分滅殺請求するには | 相続・遺言専門サイト/大江戸下町相続相談所(東京・千葉)
http://www.oedoshitamachi-souzoku.com/340/34010/
弁護士のサイト。
本文では正しいのに,タイトル等では滅殺しちゃってるパターン。


遺留分の返還請求(遺留分滅殺請求)
http://相続税申告ナビ.net/basicknowledge/legallyreserved.html
税理士?のサイト。
これも本文では正しいのに,タイトル等では滅殺しちゃってるパターン。


遺留分滅殺請求 | 福岡県福岡市の弁護士 法律相談なら井口法律事務所
http://www.iguchi-law.jp/practice/iryubun.html
これも本文では正しいのに,タイトル等では滅殺しちゃってるパターン。


遺留分滅殺請求|神戸・兵庫での相続相談なら相続手続支援センター兵庫まで
http://www.souzoku-hyogo.com/souzoku/senmon/s007.html
士業連合?のサイト。
これも本文では正しいのに,タイトル等では滅殺しちゃってるパターン。


遺留分滅殺請求権とは | 相続取分実例集
https://souzokutoribun.wordpress.com/2014/01/18/%E9%81%BA%E7%95%99%E5%88%86%E6%BB%85%E6%AE%BA%E8%AB%8B%E6%B1%82%E6%A8%A9%E3%81%A8%E3%81%AF/
行政書士のサイト。
これも本文では正しいのに,タイトル等では滅殺しちゃってるパターン。


遺留分減殺請求 | 福岡相続遺言弁護士ネット - 福岡・北九州・久留米・朝倉の弁護士が、遺留分減殺請求について解説
http://isansozoku-fukuoka.net/inheritance/legitime/
弁護士?のサイト。
珍しく,タイトルは正しいのに本文が間違ってるパターン。


刈谷市で遺産相続の遺留分滅殺請求を相談するなら | 法律を味方につける
http://senkqilaaas.net/%E5%88%88%E8%B0%B7%E5%B8%82%E3%81%A7%E9%81%BA%E7%94%A3%E7%9B%B8%E7%B6%9A%E3%81%AE%E9%81%BA%E7%95%99%E5%88%86%E6%BB%85%E6%AE%BA%E8%AB%8B%E6%B1%82%E3%82%92%E7%9B%B8%E8%AB%87%E3%81%99/
弁護士?のサイト。
本文もタイトルも全部間違えてるパターン。


遺留分滅殺請求書 | 沖縄の相続税・申告支援センター
http://zeirisi-higa.xsrv.jp/tag/遺留分滅殺請求書/
税理士のサイト。
日本語URLのおかげで恥を掻いちゃうパターン。


遺産相続時の遺留分滅殺請求に関する事例
http://www.solvedcases-lawyer.net/personal_case/iryubungensai.html
本文の一部は正しいほかは滅殺しちゃってるパターン。
弁護士が監修とあるんですが,運営主体が判然とせず,広告規程的にどうなんでしょうか・・・。


遺留分滅殺による物件返還請求の調停申立書
http://www.kobori-law.com/format/pdf/5-0iryubungensai.pdf
弁護士のサイト。の書式。
これは・・・。


遺留分滅殺請求 | 相続の遺留分を知らないだけでとんでもないことに!
http://www.countrymamasthemes.com/archives/122
行政書士?のサイト。
サイト下部の著作権表示の「相続の遺留分を知らないだけでとんでもないことに! All rights reserved.」という文言が味わい深い。
遺留分減殺請求をちゃんと表記しないだけでとんでもないことに!」


gensatuケース

遺留分をgensatuしちゃっているケース。KO・U・HU・N☆
殺せ殺せ親など殺せ!
殺せ殺せ全てを殺せ!
ゲンサツ ゲンサツせよ!
ゲンサツ ゲンサツせよ!


遺留分減殺請求:遺産相続|札幌弁護士【みずほ総合法律事務所】
http://www.souzoku-mizuho.com/mobi/cat11/gensatu.php
弁護士のサイト。
「gensatu.php


遺留分減殺請求│司法書士事務所尼崎リーガルオフィス│尼崎市塚口
http://amagasaki-legal.but.jp/iryuubun-gensatu.html
司法書士のサイト。
「iryuubun-gensatu.html」


遺留分お悩み相談
http://www.tokai-so.com/iryubun/gensatsu/
弁護士のサイト。
「gensatu」


減滅ケース

日本語って本当に奥が深いです。減殺から減滅に転訛しちゃうんですから。
しかし,こんな誤字をしてしまって依頼者に幻滅されちゃわないか心配です,なんつってwwwwワロタwwうぇwww


公正証書遺言・自筆証書遺言・秘密証書遺言   遺言・相続のことなら大西行政書士事務所におまかせください
http://office-ohnishi.jp/syurui.html
行政書士のサイト。
いちおうフォローしておくと,法律系の資格の受験生も「減滅で覚えてました」みたいなブログもあったりしたので,あり得ない覚え違いではないようです。

慰留分ケース

そこをなんとか,お願いします。相続分の半分だけは持っていかないでください。お願いします。・・・えっ,いいんですか?という請求権でしょうか。
正直申し上げると,この誤字は全くの想定外でしたが,思った以上に事例が多くてネットの闇を感じています・・・。


相続について | 法定相続分と慰留分一覧
http://www.sozoku20.com/sozoku_005.html
弁護士のサイト。
本文ではちゃんと遺留分になってるので,単なる変換ミスだとは思いますが・・・。


公正証書遺言・自筆証書遺言・秘密証書遺言   遺言・相続のことなら大西行政書士事務所におまかせください
http://office-ohnishi.jp/syurui.html
行政書士のサイト。
さっきも登場のこのサイト。減滅した上,慰留されちゃってるパターン。



弁護士ひとりの慰留分 - 弁護士ひとり~熊谷の弁護士~野口英明法律事務所(http://www.nog-law.com/
http://blog.goo.ne.jp/nogchizai/e/af39c4cc73f475051ecef351d30eb3bf
弁護士のサイト。
なんかブログ記事から自動生成臭がするんですが,どうなんでしょう・・・。



【遺言・相続】慰留分(いりゅうぶん)について  ╽【大阪・行政書士悪徳商法相談・クーリングオフ代行・内容証明・遺言書・相続・任意後見・契約書作成~石本行政書士事務所
http://www.gyosei-i.com/topics/000130.html
行政書士のサイト。
全て「慰留分」と記載されているので,そうだと思い込んじゃってるパターンですかね。



慰留分減殺請求 - VISAのアオヤギ行政書士事務所
http://aoyagi-gyoseishoshi-office.jimdo.com/2015/09/28/%E6%85%B0%E7%95%99%E5%88%86%E6%B8%9B%E6%AE%BA%E8%AB%8B%E6%B1%82/
行政書士のサイト。
タイトルだけ。


慰留分(遺留分の割合・時効・順序)
http://www.office-kawada.jp/category/1414555.html
行政書士のサイト。
短いタイトル内で正誤混在するという珍しいパターン。


取り扱い業務 | 梶尾法律事務所|阪神尼崎駅徒歩1分の弁護士事務所
http://www.kajio.org/services/
弁護士のサイト。
取扱業務の中の誤字は珍しい。


まとめ

 こんな漢字で,誤字をされている専門職の先生のサイトがたくさん見つかりました^^
 各先生方にあっては,早めに直されることをお勧めいたしますよ。
 あっ,↑感じを漢字と間違えてますね。でも以外とこれでも意味通るから直しません^^
               ↑あっ,以外と意外を間違えてる^^;;;
               ↑あっ,矢印の位置がずれてる^^;;;;
 誤字なくサイトを構築するのは難しいのかも知れませんねw

弁護士の自殺

はじめに

 以前,以下のようなツイートをして,弁護士の自殺について考えてみたことがありました。

 今日,そういう話題が出ていたので再掲してみたところ,大きな反響がありました。その割に,引用したURLが失効していたり,平成22年の情報だったりと古かったので,アップ・トゥ・デイトしようと思いブログにすることにしました。
 本当はコミケも受かったし,「総合弁護士 アトーニーG第2夜」を書くつもりでしたが,早速ネタが詰まったので真面目な記事を書こうかと。
 あっ,これも多分大嘘判例八百選に載せると思います。いつの間にか判例とは何にも関係ない社会派企画を普通に載せるようになってるんですがそれはいいんですかね・・・。

調査方法

 内閣府が自殺の統計をまとめています。
自殺の統計 - 内閣府
 ここにある「職業別,原因・動機別自殺者数」という統計を用いて分析(以下,
「pdfから情報を抜き出してエクセルでぱぱぱっと表を作っただけ」という。)しました。
 公表されている統計は平成16年からですが,「職業別,原因動機別」に整理されているのが平成19年からなので,本pdfから情報を抜き出してエクセルでぱぱぱっと表を作っただけも平成19年からを対象にしました。
 また,グラフの見栄えの問題から,以下では和暦ではなく西暦を用いました。

自殺した弁護士の数と割合

 自殺した弁護士の数を経年比較したものがfig.1です。
f:id:go3neta:20151030201704j:plain
具体的には,2007年から2014年までの間に自殺した弁護士は【96名】で,男性は【84名】,女性は【12名】ということになります。平均して【年間12名】の弁護士が自殺している計算になります。
 2004年~2006年の「弁護士等」の自殺者のデータも出ていますが,15名,8名,13名という推移であり,傾向は変わっていません。
 また,自殺した人数を当時の弁護士の人数(
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/books/data/2014/whitepaper_suii_2014.pdf
)で除した「自殺率」(趣味の悪い用語ですが・・・)は以下のとおりです。

○人に1人が自殺
2007 2312
2008 2276
2009 2244
2010 1599
2011 3811
2012 2292
2013 3057
2014 2920

 概ね,弁護士2000人~3000人に1人が自殺している計算になります。


自殺した理由

 内閣府の統計では,自殺の理由について以下のとおり大分類しています。そのそれぞれについて小分類を設けて分類しています。
・家庭問題
・健康問題
・経済・生活問題
・勤務問題
・男女問題
・学校問題
・その他

 ここでは,大分類ごとに理由を円グラフにしてみました。男性と女性で分けています。
f:id:go3neta:20151030202218j:plain
f:id:go3neta:20151030202229j:plain
 全般的にいえるのは,健康問題が多いことでしょう。男性で39%,女性で50%と多数を占めています。「健康問題」の小分類は,「身体の病気」,「うつ病」,「」統合失調症」,「その他の精神疾患」などがあり,その中でも多いのが,「うつ病」,次いで「身体の病気」でした。また,「その他の精神疾患」も意外と多いのですが,うつ病統合失調症・アルコール依存・薬物乱用の他の精神疾患が何なのか,ちょっと気になります。
 男性では2番目に多い「経済・生活問題」が女性では1件もないことも注目されます。「経済・生活問題」には,「事業不振」「生活苦」「負債(多重債務)」等,個人事業主が直面する問題が含まれます。経営に参画する率のジェンダー差によるものではないかと見ております。
 勤務問題は男女を問わずそこそこ見られました。小分類では「仕事疲れ」が多数を占め,次に「職場の人間関係」が上がります。女性では「職場の人間関係」がやや多かった印象です。ここらへんもジェンダー差ですかねえ。
 女性に多いのは家庭問題でした。親子関係,夫婦関係,家族の死亡といろいろなパターンがあります。

検討

 職業としてわざわざ「弁護士」を取り上げて統計を取っているのが興味深いです。職業別の大分類は専門・技術職枠なのですが,たとえば医師は「医療・保健従事者」と括られていますし,「芸能人」と「プロスポーツ選手」も一緒くたです。他方,学校の教員は「教員」として統計されています。それらとの対比で考えると,弁護士は自殺率が高いか,高いと思われているのではないかと考えられます。
 ところで,部外者の感覚では,教員の自殺は多そうなイメージがありますが,果たしてどうでしょうか。
 教員は日本に約100万人いるようです(ソースはwikipediaなので怪しいですが。)。それに対して2014年の教員の自殺者は103人です。1万人に1人の計算です。
 他方,弁護士は,上述したとおり,2000~3000人に1人ですから・・・弁護士の方がよっぽど自殺率は高いことになりますね。

まとめ

 弁護士の自殺率は,弁護士自身が考えるよりも高いです。それだけストレスが掛かる仕事であることを認識しましょう。
 自殺したくなった弁護士は,日弁連でやっているメンタルヘルスカウンセリングを利用してくださいね^^

判例集判例百選

はじめに

 きょう,『著作権判例百選』が著作権侵害を理由とした出版差し止め仮処分を受けたという面白法学ニュースがありました。www3.nhk.or.jp
 著作権を論ずる書物の著作権が問題になるという意味では,非法曹にとっても分かりやすい面白さがありました。
 ところで,当職は『大嘘判例八百選』という何らかの知的財産権を侵害していると言われても文句の言えない同人誌を出しております。
 その第2版で『判例判例百選』という企画をやりました。判例集が問題となった判例を集めたものです。
 こんなニュースがあって時期的にPV稼げそうだし,Webで全文公開することにしました。

序文

 文字どおり,判例を一定のポリシーに基づいて収集して公刊されるものが「判例集」である。本書も「判例集」の代表格である「判例百選」シリーズのオマージュとなっており,本書を手に取るような法学趣味の読者諸兄にはわざわざ説明するまでもなかろう。
 しかし,その「判例集」自体も,生の事件を発行者が取捨選択して掲載しているものである以上,法的紛争とは決して無縁ではないのであった。
 ここでは,「判例集」やそれに類するものが登場する裁判例を収集してみた。「判例集」を巡るドラマに思いを馳せてみるのもいいかも知れない。

東京地裁平成3年3月29日判決(判時1399号98頁)
 本裁判例は多数の判示事項を含むが,本百選の趣旨との関係では,「死刑判決を受けた未決拘禁者に対する図書閲読の不許可処分が適法とされた事例」である。
 問題となった不許可処分とは,「死刑判決を受けた未決拘禁者に対して,「別冊ジュリストNo82・刑法判例百選 総論(第2版)」を差し入れたところ,東京拘置所長がその中の「死刑の執行方法」と題する判例解説の部分の抹消に同意しなければ閲読を許さない旨告知したが,未決拘禁者が同意しなかったため,同書を弁護人に郵送した。」という措置である。
 判示によれば,大要,死刑の執行方法の記載された判例百選を閲読した場合,極度の精神的不安定状態に陥り,自殺,自傷行為に出る危険や逃亡を企て又は獄中,獄外の死刑反対運動等を激化させる等の危険性が高いものと推測され,勾留目的が阻害されあるいは監獄内の規律及び秩序の維持上障害が生ずる相当の蓋然性があるとして,閲読の不許可処分を適法とした。また,被告人の防御権の見地からも,必要不可欠でないとも判示した。
 なお,「死刑の執行方法」という判例の解説を行っているのは,第6版まで出版されている「刑法判例百選」の中では第2版のみである。第2版は他にも「無期懲役刑の合憲性」など,他の版では取り上げなかった判例も数多く取り上げており,編集方針が特徴的である。図書館等にあれば読んでみるのも面白いだろう。図書館等にない場合は,判例秘書を利用して判例百選DVDを検索するとよい(ステマ)。

特許庁平成14年3月1日審決(審判1998-9723)
 「判例体系」という商標(指定商品は補正後「加除式の判例集」とされた。)につき登録拒絶査定に対して不服を申し立てたところ,特許庁が原査定を取消し,同商標を登録すべきとした事例。
 原査定においては,商品の品質(内容)を表示するにすぎないものとされていた。しかし,本審決は,「加除式の判例集」は定期刊行物に類するもので,それに使用される題号は内容表示として捉えられるというよりは,むしろ,当該出版業者に係る著作物の出所識別の表示としての機能を有するものと判断するのが相当として,本願商標を登録すべきと判断した。
 なお,せっかくなので「判例」という文字列を含む商標を本項の末尾にまとめてみたので参考にされたい(註:表を貼り付けるのが面倒なので省略しました^^)。

  • 【リーガルベース】(ですかねえ?)

東京地裁平成14年7月29日判決(判タ1105号160頁)
 判例データベースをCD-ROMで提供している業者原告が,被告に対してデータベースの使用を認めるとの本件契約を締結し,被告は顧客にデータベースを使用させて利益を得ていた。しかし,原告と被告との間で確執が生じ,本件契約は解除されるに至った。対抗手段として,被告は,顧客全員に対して自社で開発した別のデータベースを案内したところ,顧客のほぼ全員が別のデータベースに乗り換えたという事案。
 本件契約の解釈と,別のデータベースに乗り換えさせた行為が債権侵害に当たるかが争点である。本稿では争点にまで踏み込む紙幅がないので割愛する。
 余談であるが,判例秘書上で本件裁判例を表示させると,「判例データべーろ」「裁判玉裁判官」というおもしろ文字列が見つかるので,好事家のために併せて紹介したい。また,被告代理人の筆頭が,かの倉田卓次氏であることも付言する。倉田氏は意外と色々な判例に顔を出しているので,そういうオリジナル判例集を作ってみるのも面白いかも知れませんね(他力本願)。

  • 【交通事故民事裁判例集】

長野地裁飯田支部平成元年2月8日判決(判タ704号240頁)
 原告は保険金請求事件の別訴を提起していたが敗訴した。その裁判例を交通事故民事裁判例集が実名で取り上げ,「保険金詐欺事件」という項目に収録したこと等が原告の名誉を毀損したとして損害賠償を求めた事案につき,原告の請求を棄却したという事例。
 「判決が不法不当な目的に供されるとか,当事者等のプライバシーを必要以上に侵す目的もしくは方法によるなど特別の事情の存しない限り,判決の公表が直ちに当事者等の名誉・信用を侵害するものではないと解するのが相当である。」
 裁判例の公表が名誉毀損・プライバシー侵害等に当たるかどうかのリーディングケースである。もっとも,「交通事故民事裁判例集」という,交通事故の取扱いが多い弁護士でもなければ目にしないような文献である点で特色がある。

さいたま地裁平成23年1月26日判決(判タ1346号185頁)
 判例時報に掲載された判決文中に当事者名が実名のまま表示されていたことについて,プライバシー侵害による不法行為は成立しないとされた事例。
『被告による本件各掲載行為の目的は,判決文を紹介することにより法曹界の学問的資料を提供することであって,公益性があり,また,掲載態様に関しても,原告の請求が認められた事例として別件各判決文をそのまま掲載したに過ぎないものであり,原告が別件訴訟を提起したことを暴露したり批判の対象とすることを目的としていないことは明らかである。本件各雑誌は法律専門誌であって,一般人が見る機会は新聞やインターネットに比べて低く,開示の相手方はある程度限定されているといえる。』
 以上2件の裁判例は,判例集が判決文を掲載するにあたり,匿名処理をするかどうかにつき一石を投じたものである。いずれも請求が棄却されているものの,同種の請求があり得ることから,基本的には,特に一般私人の場合には実名での掲載は今後見込めないのではないかと思われる。
 労働事件等において,和解を試みる場合,「判決にまで行っちゃって万が一敗訴ってことになれば御社の名前が事件の名前になって『○○事件』とか言われちゃいますよ・・・。」などと説得するという手法が紹介されることがある(たとえば「民事弁護ガイドブック」205頁)が,本件との関係では通用しなくなる可能性もある。
 なお,問題とされている判例時報は,1857号(一審),1887号(二審)であるが,本裁判例自体は,判例時報誌上では紹介されていないようである。

  • 【???】

大阪地裁平成3年11月27日判決(判時1411号104頁)
 近畿大学(?)法学部で無体財産権法を専攻する教授である原告が判例データベースを作成していて,被告会社らが同データベースについて独占的販売契約を締結したところ,同データベースが収録する判例件数の点で争いが生じてしまった。そこでそれぞれ違約金を請求し合ったという事案。
 本項との関係では,判例データベースの著作物性について争いなく認められている点が興味深い。曰く,判例データリスト及びオンライン方式のデータベースは編集著作物として,判例抄録及び判例論評(コメント)は学術の範囲に属する創作的表現物であるとして,それぞれ著作物性を認めている。
 なお,被告会社らが実名なのに,判例データベースの名前や教授の特定には至らず。残念。・・・ってこういうことをする奴が出てくるから匿名処理するんですよね・・・。