刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

遅延損害金の計算方法

はじめに

 「ニッチすぎる弁護士実務解説」を銘打っているわりに,ネタや世直しに走り,実務的なことはまったく書かなくなってしまったゴ3ネタブログ。
 今回は,原点に立ち返って,ニッチすぎる弁護士実務を解説したいと思います。
 ということで,遅延損害金の計算を取り上げます*1
 さてさて,本題です。「遅延損害金」とは,民法419条1項に定められています。

第419条1項
金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。

 たったコレだけの条文なわけですが,具体的な計算については多くの弁護士が理解していないと思うんですよね。判決確定後に支払う場合,先方の代理人との間で金額の調整に時間かかったりしますし。保険会社(金融機関なのに)が関与しているのに間違っていたりして,もやもやした気持ちになることもあります。
 以下,遅延損害金の計算方法について述べていきたいと思います。

免責事項

 ドヤ顔でアレコレ言っておりますが,本稿には誤りを含む可能性が相当程度存在することを自覚しています。ですので,本稿を元に計算して,相手方からブチ切れられたりしても責任は負いませんのであしからず^^

例題

 「遅延損害金の計算なんて簡単だろwwww」みたいに仰る御仁もいらっしゃるかも知れませんので,ここでひとつ問題をば。
 以下の遅延損害金の計算を3分で行って下さい。巻末に答え載っけておきますので答え合わせしましょう。
 ボスに遅延損害金の計算をするように言われて慌ててぐぐってここにたどり着いた新人イソ弁の方も,慌てず騒がず,ぜひ計算してみてください^^

 原告は,平成20年4月2日午後4時30分に発生した交通事故により,10万円の損害を受けた。原告は運転者たる被告を提訴して判決に至り,平成24年9月25日に確定することとなった。確定日までの遅延損害金はいくらか(事故日から平成24年9月25日まで年5分の金員)。

遅延損害金の利率

 さて,ここからが各論になります。
 遅延損害金の利率は,基本的には民法所定の5%です(民法404条)。ただし,別段の意思表示をしていないかどうか(契約書をじっくり見ましょう。),あるいは商事法定利率(商法514条)でないかに注意すべきです。商事債権かを見極めるのも,結構細かい問題があったりするんですがそれはまた別の機会に。

期間計算について-起算日

 結論を先に言うと,

原則として初日を算入しない。ただし,請求すべき金銭債権が不法行為債権である場合は初日を1日と数える。

ということになります。
 民法138条以下では,初日不算入の原則が定められています。ですので,一般の債権の場合,基本的には初日を算入しません。したがって,翌日を1日目とカウントします。
 しかしながら,不法行為債権の場合,損害賠償債権が不法行為の時に遅滞に陥ることとされています(最判昭和37年9月4日民集16-9-1834等参照)。そうすると,その日から遅滞の責めに任ぜられるので,初日から遅延損害金が発生します。この考え方を敷衍すると,たとえば,「交通事故に遭い,その日のうちに修理して,その日のうちに修理費用を加害者に支払ってもらう場合」であっても,事故当日1日分の遅延損害金を請求できることになります。常識的に考えると,当日に支払って利息がつくというのはいかにも違和感がつきまといますが,法的には正しい見解です。
 また,蛇足ながら,貸金債権の利息を計算する場合にも金員を交付した初日を算入するのが判例です(最判昭和33年6月6日民集12巻9号1373頁)。

利率の割り付け方

 こうして,利率と起算日が分かりました。あとは末日までの遅延損害金を計算するだけです。
 ここからが遅延損害金計算の根幹部分ですが,たった3つのルールしかありません。それは次のとおりです。

① 起算日から年単位で計算できる部分を計算する。

② 年単位に満たない部分のうち,閏年に属する部分を分母を366として日割り計算,平年に属する部分は分母を365として日割り計算。

③ 特約があればそれによる。

 これだけでは分かりにくいので,冒頭に挙げた例を使って計算してみましょう。

平成20年4月2日から平成24年9月25日まで年5分の割合

 交通事故による不法行為債権ですので,初日を算入します。ですので,起算点は事故日の4月2日となります。
 まず,年単位の期間を抽出します。上記①のルールです。
 平成20年4月2日~平成21年4月1日でちょうど丸一年です。民法143条2項により,期間は応当日の前日に満了するからです。平成21年4月2日までにしてしまうと,丸1年と1日になってしまうので,注意しましょう。
 このようにして,平成24年4月1日までで,丸4年ということになります。ここまでで4年×5%=20%です。


 年単位に満たない部分が残りましたので,②のルールの出番です。
 平成24年は閏年でした。ですので,端数の日数を366日で日割りにして計算します。端数の期間に2月29日が含まれていてもいなくても366日で日割り計算します。閏年は1年間が閏日の分だけ間延びしているというイメージでしょうか。満了日が平成25年に食い込んでいる場合であれば,平成24年分の日数は366日で日割り計算,平成25年分の日数は365日計算となります。
 日数カウントも間違えやすいところですが,当職はエクセルなどには頼らず,月ごとに書き出すアナログな方法を採用しています。

4月 29日(30日間から4月1日の1日分を控除)
5月 31日
6月 30日
7月 31日
8月 31日
9月 25日(1日から25日までは25日ある。25-1=24などとしないように。)
 計177日

 あとはこれを,閏年の366日で日割り計算します。
 5%×(177日÷366日)=2.418032786・・・%
 

 このようにして,遅延損害金は,元金10万円×(20%+2.418032786・・・%)=2万2418.03278・・・円となります。
 

 円未満については,基本的には,通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律3条1項で,小数点以下第1位を四捨五入します。なので,今回は【2万2418円】が正解となります。ただし,同条2項,国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律2条1項により,国に対する場合は小数点以下は全て切り捨てとなります。出題条件からすると,国自身が運転者になることはありませんので,四捨五入するのが正解です。
 みなさん,正確に計算できましたでしょうか。


 以下,重要度は低いものの,注意を喚起しておきたい点をいくつか述べます。
 ①のルールの適用の際は,起算日が閏年かどうかは基本的には関係ありません。「全期間について閏年は366日で日割り,平年は365日で日割り」を貫徹する説もあるにはありますが,少数説であり,裁判所実務の採用するところではありません。例題の起算日の平成20(2008)年は4で割り切れるので閏年ですが,だからといって何も変わりません。仮にこれが平成19年4月2日からだったとしても上記の計算がちょうど1年分伸びるだけです。
 では,起算日が閏日である2月29日である場合はどうなるでしょうか。閏年から次の閏年までの期間を定めた場合,応当日がないことになります。この場合,民法143条2項但書により,応当日がない2月の末日である2月28日が満了日となります。閏年から次の閏年までの期間の場合も,応当日の前日である2月28日が満了日となりますので,結局,2月29日を起算日とした場合,年単位で見ると必ず2月28日が満了日となります。


 4,6,9,11月は30日しかありません。2月をあわせて「小の月」といったりします。これらを「にしむくさむらい(西向く士=十一)」と覚える方法が有名(指摘するのすら恥ずかしいレベルです(笑))です。


 閏年かどうかの判定ですが,西暦・和暦(平成の場合に限る。)の数字が4で割り切れる年が閏年です。西暦の場合は,下2桁が割り切れるかどうかでもOKです(ただし2000年は割り切れる扱い)。実は,西暦の場合,「4で割り切れても100で割り切れる年は平年だけど,100で割り切れても400で割り切れる年はやっぱり閏年にします」というクッソややこしいルールがあります(閏年ニ関スル件(明治三十一年勅令第九十号)参照)。ただ,1900年を跨ぐ遅延損害金の計算をする場合や,2100年以降もご健在である自信のある方でなければ関係ありませんので,4で割り切れるかどうかだけ覚えておけばよいです。
 余談ですが,「我妻・有泉コンメンタール民法―総則・物権・債権―(第3版)」の288頁に,「閏年の2月29日に生まれた場合,20歳になる年は当然閏年である」という記載がありますが,上記の100で割り切れる年ルールがあるので,不正確な記載です(たとえば2080年という閏年の2月29日に生まれた者は,2100年という平年に20歳になる。)。


発展的な論点-「抽象的2月29日説」

 実は,上記のルールについては説が複数あります。上記で取り上げた説は,裁判所実務が執る見解で「端数期間暦年閏年説」と呼ばれます。この見解を採用するのは,東京地裁民事部の債権執行係や大阪地裁の執行係のようです。ガチムチ要件事実おじさんこと岡口判事の「民事訴訟マニュアル」(上巻,2頁)もこれを支持しています。当職もこの見解です(当職ごときは何の権威にもなりませんが(笑))。
 ところが,法務省は全く別のルールを採用しています。「抽象的2月29日説」と呼ばれます。法務省謹製の「遅延損害金計算ソフトウェア」が採用しています(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00073.html)。
 ここでは,法務省の準則である「抽象的2月29日説」もご紹介しておきたいと思います。


 実務上,遅延損害金を計算するケースというのは,①判決確定後の支払いの場合,②債権執行を実施する場合で,確定遅延損害金を計算する場合,③破産の配当等の場面で遅延損害金を計算する必要がある場合,④供託する場合などが想定できます。
 このうち,①,②,③は裁判が絡むものですので,裁判所実務の「端数期間暦年閏年説」で問題ないと思います。
 他方,④は法務省の法務局の管轄なので,この場合は計算が違うといわれる可能性があります。実際,上記のソフトウェアも,供託の場合に活用されることを目的として作られているようですので。
 ちなみに,かつて当職は,説の違いに気付かず,「遅延損害金計算ソフトウェアは閏年計算がおかしい」と法務省に報告したところ,以下のようなメールをもらいました。
f:id:go3neta:20150319140955j:plain

 これを整理すると以下のとおりとなります。

ア 起算日から年単位で計算できる部分を計算する。

イ 年単位に満たない部分を起算日として向こう1年以内に「2月29日」があれば,現実に「2月29日」という日が含まれていなくても366日で日割り計算を行う。それ以外の場合は365日で日割り計算を行う。

ウ 特約があれば特約に従う。

 先ほどの例題ですと,イのルールによって,平成24年4月2日から1年以内には「2月29日」は含まれませんので,端数の期間を365日の日割り計算で計算します。
 これを計算すると,遅延損害金部分は,2万2425円ということになります。

なんと! 7円も違います!!!!!

 ・・・たかが7円です。弁済の提供の議論では,例の判例の趣旨からすれば数円単位なら問題ないでしょう。しかし,元本がもっと高額の場合には,差違がもっと高額になるわけですので,弁済の提供としての効力が認められない可能性が出てきます。要注意ポイントでしょう。
 供託をする場合,法務局と事前に調整することがほとんどだと思いますので,遅延損害金の点についてはよくよく確認しておきましょう。もっとも,当職が供託した際には,普通に「端数期間暦年閏年説」で計算した額で通ったような記憶がありますが・・・。
 ところで,なぜこのような説があるのかについては・・・当職自身も消化しきれていませんので,参考文献に挙げたHPを参照してみてください。

クッソめんどくさいじゃん! 簡単に計算するソフトはないの!?

 毎度おなじみ,岡口判事がエクセル用のマクロを公開しています。
裁判用利息単発計算の詳細情報 : Vector ソフトを探す!
 これももちろん「端数期間暦年閏年説」を元に計算されます。先ほどの条件を入れると,一発で「2万2418円」と出ました!
 あれっ,じゃあこの記事の意味って・・・。
※岡口判事に記事とマクロを紹介していただきましたので,本項は全面的に書き換えました。


まとめ

 標語的にいうと,
①利率を確認
②年で計算できる部分は,閏年とか考えずに年で計算
③端数は,閏年の部分は366日で日割り,平年の部分は365日
④供託の場合は他の説を採用している場合があるので注意
ということになります。

参考文献

文中に挙げたもののほか

一般向き・民法準拠計算書-金利の赤本
第一部 金利及び弁済金額計算に関する法律と実務(一般用・弁済計算くん用)
http://www.zunou.gr.jp/hattori/kinribensaikun.htm

が非常に参考になります。「抽象的2月29日説」の議論はここに詳しいです。

*1:余談ですが,ブログ記事はWordで編集するようにしているのですが,ファイル作成日時をみたら"2014/02/03"でした。一回書き終わったものを全部破棄して書き直したりしたら時間掛かっちゃいました^^;(全部破棄したのは「中学受験で植木算をさんざんやったのに日数計算に弱い弁護士(笑)」「漢字が読めないのが許されず,数字に弱いのが許される弁護士業界(笑)」等の正論不穏当な表現があったためです。)。