はじめに
きょう,板倉宏先生の訃報に接しました。
www.asahi.com
板倉宏先生が,ジュリスト*1に,マスコミからコメントを求められることに対する心情を吐露しているという情報をいただいていた直後で,それを読んだ上でコメントをしようと思っていた矢先でした。突然のことに驚き,起案の手が止まってしまいました。
板倉宏先生といえば,近年,ワイドショーやスポーツ新聞で量刑をコメントする通称「量刑占い」で知られており,そのコメントはツイッター上の法学クラスターでも常に物議を醸し続けていました。
それでもなお板倉宏先生がコメントを出すたびに文句(?)も言わずにあれやこれやと議論になっていた様子からは,板倉宏志先生のお人柄が偲ばるところです。
そのような中,私の発行する同人誌「大嘘判例八百選[第5版]」にて,「板倉宏博士傘寿祝賀論文集」を勝手に取りまとめ,板倉宏先生の関連する判例を整理し,量刑占いについて分析を加えておりました*2。
先生を敬愛する弁護士のひとりとして,板倉宏先生の功績を知っていただきたく,「板倉宏博士傘寿祝賀論文集」をここに全文公開するものです。
板倉宏先生に対し,心から哀悼の意を表します。
はしがき
読者諸氏は,「板倉宏」名誉教授をご存じだろうか。
wikipediaによれば,日本の刑法学者,弁護士。日本大学名誉教授(刑法)である。同じ團藤重光名誉教授の門下である藤木英雄教授と同様,過失犯についていわゆる危惧感説を唱える論者である。租税刑法の研究でも知られている。
・・・というのは,刑法をかじったことのある者であれば誰でも知っていると思われる。しかし,板倉宏名誉教授がより有名なのは,マスメディアが法律関係ニュースを報じる際に頻繁にコメントを出すことであろう。当職ら法曹からすると,そのコメントはやや的外れである場合が多く,そもそも刑法が専門であるのに(弁護士である以上,専門など関係ないがそれはひとまず措く。)民事事件についてのコメントをドヤ顔で付けており,Twitterなどでは「また板倉名誉教授か」などという嘆息が聞かれることもある。
当職は「アレな回答をする人だなあ・・・」と常々思っていたが,コメントを見ているうちに「記者の勉強不足で要約不相当でアレな回答になっているのでは・・・?」と思うようになったものの,最終的には「記者の勉強不足を慮って分かりやすく説明できない自体がアレではないか」という結論に至った。
しかしながら,マスメディアに引っ張りだこであり,その意味では一般の視聴者・読者からの支持は絶大なのではなかろうか。弁護士登録も会員番号的に43期と44期の間にしているようであって,弁護士としてのキャリアも25年近くあることになり,一定の権威はあろう。
このように毀誉褒貶のある板倉宏名誉教授であるが,そのコメントを丁寧に分析して論じた文献は今のところない。そこで,板倉宏名誉教授の傘寿(去年だったけどw)を勝手に祝い,ここに「板倉宏博士傘寿祝賀論文集」を上梓することとした。以下,板倉名誉教授のことは,タイトルに合わせて「板倉宏博士」と呼称することとする。
板倉宏博士判例百選
「板倉宏」で判例検索をかけると,さまざまな判例がヒットする。その多くが租税刑法の論文が引用されている各税法違反被告事件である。しかし,それ以外にも興味深い判例が発見されたので紹介したい。
□最決昭和60年7月19日集民145号271頁
死刑の確定裁判を受けた者が刑法11条2項に基づき拘置されている場合における死刑の時効の進行について,消極の結論を維持した事例である。
念のために付記するとこの場合の「時効」とは,「刑の時効」(刑法31条)のことであり,公訴時効(刑訴法250条)とは異なる概念である。現在は,平成22年の刑訴法改正で死刑にあたる罪について公訴時効が撤廃された際に,それとの均衡から,死刑に該当する罪の「刑の時効」も撤廃されている。
さて,この判例に引用されている抗告理由書中に,板倉宏博士が登場する。登場部分を引用しよう。
『本件につき、原決定を支持する学説はたつたの五名(藤木英雄、奥平康弘、渥美東洋、板倉宏)であるのにたいし、「拘置中の死刑囚についても死刑の時効が完成する」としている学者は、一八五名である』
ごく最近,国会で似たような議論をしていたのを想起するが,本件では結局,原決定を是認した。圧倒的大多数の学者の採らない説を採用したということになろうか。しかし,挙げられている5名の教授がいずれもビッグネームなのが凄い。
□東京高判平成7年10月30日判例時報1557号79頁
宗教法人及びその主宰者を中傷する雑誌の記事等により,宗教的人格権や信者個人の名誉を毀損したとして慰謝料等を請求した事案につき,特定の信者個人の慰謝料請求を認めた事例。
板倉宏博士がどこに登場するかというと,週刊誌に寄せたコメントが判決に引用されている。
『(宗教法人の会員と称する者からの)電話攻勢は業務妨害に、社屋内に押しかけシュプレヒコールをするのは建造物侵入と威力業務妨害にあたるなどの見解』
『今後の偽計業務妨害罪などの裁判でも、「(宗教法人)」側の敗訴の可能性が高い』
などのコメントをしている。前者はともかく,後者はやはり民事の話である。
これらのコメントが名誉毀損に当たるとされたわけではないことに注意が必要であろうか。注目すべきは,平成3年頃から週刊誌にコメントを寄せている点であろう。24年前からコメント芸を続けてきたわけである。まさに継続は力なり,とはこのことであろう。
なお,ネットの記事によれば,板倉宏博士がメディアに登場するようになったのは40年前ごろで,かのロス疑惑やオウム事件についてもコメントを求められてきたという*3。
□最判平成11年10月26日民集53巻7号1313頁
板倉宏博士が,ある刑事事件について第1審で有罪となった事実を書いた新書や雑誌の記事について,その控訴審において当該事実について無罪とされた場合に,いわゆる相当性の抗弁が成立するか,という判例である。
民集登載判例であるので,せっかくなので判旨を引用しよう。
「刑事第一審の判決において罪となるべき事実として示された犯罪事実、量刑の理由として示された量刑に関する事実その他判決理由中において認定された事実について、行為者が右判決を資料として右認定事実と同一性のある事実を真実と信じて摘示した場合には、右判決の認定に疑いを入れるべき特段の事情がない限り、後に控訴審においてこれと異なる認定判断がされたとしても、摘示した事実を真実と信ずるについて相当の理由があるというべきである。けだし、刑事判決の理由中に認定された事実は、刑事裁判における慎重な手続に基づき、裁判官が証拠によって心証を得た事実であるから、行為者が右事実には確実な資料、根拠があるものと受け止め、摘示した事実を真実と信じたとしても無理からぬものがあるといえるからである。」
刑法の教授自身が当事者となって民事判例に登場するという希有な例である。
もっとも,一部の記述については名誉毀損が成立しており,東京高裁に差し戻しの上,慰謝料の額を再度審理すべきこととされた。
いずれにせよ,このような訴訟にまで発展したのに,マスメディアにコメントを続ける胆力は尊敬に値する。
板倉宏博士コメント百選
さて,ここからは,板倉宏博士がマスメディアに対して寄せたコメントを品評していきたい。事件の要約とコメントの要旨を紹介した上,当職のコメントを掲載する。末尾に,当職の独断と偏見による信頼度を星5つで表現してみたので参考にされたい。
もっとも,当職とても弁護士としてのキャリアを六捨七入すれば0年になってしまう程度の浅学非才の身であり,当職のコメントに誤りが混在している可能性は巨粒子レベルで存在しているはずである。その点,お詫びかたがた,予め付言しておく*4。
□2015年5月28日18時55分 スポーツ報知
http://www.hochi.co.jp/topics/20150528-OHT1T50115.html
事件を要約すると,「コンビニで10万2000円の支払いに対して,被疑者が10万5000円を支払ったところl,コンビニ従業員が15万円と打ち間違え,被疑者は釣り銭の差額約4万5000円を受領した。被疑者は詐欺罪で逮捕された。」というもの。なんという教室事例。
板倉宏博士のコメント;
「詐欺罪が成立するかどうかは、金額が違っていると気付いていたかどうかという点が問題。金額が大きいと、気が付いていたと判断される可能性が大きいと思います」。
後段は事実認定的には指摘のとおりであると思われる。前段についてはやや言葉足らずな印象。通説的見解によれば,釣り銭を受け取る前に気付いた場合は不作為による詐欺,釣り銭を受け取った後に気付いた場合は占有離脱物横領,とされている。せっかくならそのことも指摘すべきであろう。その方が読者の知的好奇心も掻き立てられよう。
★★★★☆
□2014/10/22(水) 11:26:33.95 東京スポーツ新聞(元ソース削除のため2chソース)
http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1413944793/
事件を要約すると,「ジャニタレが,路上で男性と口論になった際,その連れの女性が携帯電話で撮影しようとしたため,携帯電話を取り上げて持ち去った」というもの。
板倉宏博士のコメント;
「器物損壊がおかしいとまでは言わないが、窃盗、または強盗が適当ではないか」
「『物を持ち去ったけど、数日後に返したのだから、窃盗じゃありません』なんて甘いと思いますよ。」
「それがまかり通れば、泥棒しても後で返したら誰でも罪に問われないことになる。
警察は甘いと言わざるを得ない」
「山下さんは任意で事情聴取を受けたと思います。逃亡のおそれもないので、身柄送致ではなく、書類送検になったのでしょう。万が一、略式起訴された場合は罰金20万円くらいになる」
いわゆる不当領得の意思の問題。「撮影するのを妨害するためだった」という弁解を排斥するのは困難と思われ,不当領得の意思を肯定するのは難しいように思われる。
ただ,事件の見通しは指摘のとおりな印象を受ける。
★★☆☆☆
□2013年6月13日 08:29 スポニチ
http://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2013/06/13/kiji/K20130613006002650.html
事件はいわゆる「統一球問題」。日本野球機構(NPB)が,統一球の仕様を変更したのにも関わらずそれを公表していなかったという問題である。
板倉宏博士のコメント;
「法的解釈は非常に難しい」
「契約に際して個人事業主である選手へ条件を十分に知らせていなかったわけですから、“契約の不完全履行”に当たる可能性があります」
誰と誰との間の「契約の不完全履行」なのか判然としない。
統一契約書様式をみると,野球選手はそれぞれの球団と契約することになるようである。直接,日本野球機構との間で契約するわけではない。また,統一球問題は,日本野球機構とボールを供給していたミズノ社とが隠蔽していた点が問題視されていたものである。球団の問題ではない。
球団は,統一球の品質について知るべき立場にあったとされて初めて,選手に対して債務不履行に基づく損害賠償をすることになろう。球団は,一般社団法人である日本野球機構の社員であるようであるが,あくまで別法人であり,日本野球機構が知っていることはただちに各球団が知っているということにはならないのではないか。
所論は,日本野球機構とプロ野球選手とが直接に何らかの契約を締結することを前提とした主張なので,実態に即していないとしか言いようがない。
☆☆☆☆☆
□2013年08月13日 16時00分 東スポ
http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/172828/
事件を要約すると,「飲食店のバイトが冷蔵庫の中に入った写真をTwitterで拡散した。」というもの。
板倉宏博士のコメント;
「2000万円ほど請求してみるのもいいでしょう。実際に取れるのは500万円ほどになるとは思います」
「店の言う通り、人件費や売り上げの補償を求めることになる。風評被害については額の算出が難しい。また、バイトが払うのは大変なので、事実上、親が払うことになるのではないか」
「こういったことで店がバイトを訴えるケースはあまり聞かない。損害賠償請求は再発防止にもなるので、請求することは判断としていいと思います」
店は,バイト君に対して,不法行為に基づく損害賠償請求を行うこととなる。
この店は,休業を余儀なくされた。その間の休業損害については請求が十分に可能であろう。その後,閉店したようだが,閉店についての責任ということになると,相当因果関係があるかどうかはちょっと怪しくなってくる。
もちろん,その休業損害からは,通常かかるはずの経費の出費がなくなることから,その分の額を控除する必要がある。
このように,損害賠償の請求に当たってはやや複雑な計算をすることになると思われ,簡単に数字を算定することはできないと思われる。やはり需要があるのは,理論の整合性や正確性を度外視しても言い切れる弁護士なんですかね・・・。
バイト君は未成年のようだが,親権者の責任を問うことは難しいだろう。バイト君に請求して,親が支払うのを待つということになる。実務上,そのような場合に支払いがあるケースはそこまで多くなく,見通しが甘いように思われる。
★☆☆☆☆
□2013年10月19日 16時00分 東スポ
http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/196150/
事件を要約すると,「飲食店のバイトが食洗機に体を入れた写真や,茶碗を裸の胸(註:男)に押し当てたりした状況の写真をTwitterで拡散させた結果,店が破産した。」というもの。前の件とは別件。
板倉宏博士のコメント;
「最低でも1000万円、理屈を言うと負債総額分は学生から取れると思いますが、慰謝料込みで5000万円ぐらいは取れる」
元々の経営状態が分からないものの,負債総額分を請求するのはいかにも無理筋なような。また,額をここまで断言できるだけの材料はないように思われる。運営していたのは会社であるが慰謝料?
ところで,負債総額は約3300万円とされているようであるが,5000万円取れちゃったら支払不能でなくなってしまうのでは・・・。
なお,本件の続報については
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20131213/257028/
で読める。
★☆☆☆☆
□2014.5.19 05:04 サンスポ
http://www.sanspo.com/geino/news/20140519/sca14051905040005-n1.html
事件を要約すると,「有名アーティストが覚せい剤取締法違反(所持)のかどで逮捕され,その後起訴された。」というもの。
板倉宏博士のコメント;
「初犯は執行猶予になる場合が多いが、今回は実刑の可能性が高い」
「逮捕されてもウソをついた証拠となる」
「裁判では所持と使用の罪を併せて求刑が3年で、判決は2年半の実刑になるのでは」
一般的な覚せい剤事犯で,初犯で自白事件であれば,懲役1年6月,執行猶予3年というのがよくあるパターンである。しかし,本件では,MDMAも所持・使用したこと,所持量が多かったことからやや重めの量刑となる事案である。
求刑は懲役3年であったものの,懲役3年,執行猶予4年の有罪判決となった。
求刑の年数は言い当てており,実刑になれば多少割り引かれて懲役2年6月程度になっていたと思われ,そこまで大きく外してはいない印象である。もっとも,執行猶予期間が4年であることから,実刑ギリギリの事案(通例,保護観察付きの執行猶予5年になる。)であったとまでは言えず,その意味では外している。
★★☆☆☆
□2014.7.4 05:02 サンスポ
http://www.sanspo.com/geino/news/20140704/sca14070405020012-n1.html
事件は同上。保釈されたタイミングで出たコメントである。
板倉宏博士のコメント;
「保釈金の700万円は、ちょっと安いという感じを受けた」
「被告はヒット曲も多いし、もうかっていると思っていたので1000万円くらいいくと思っていた。現在の財力が、それほどでもないのかもしれない」
「ホッとしたのではないか。容疑を全て認めて、反省をしている『完落ち』状態だったのだろう」
「今回初犯だから、懲役3年、執行猶予4年くらいでしょう」
「裁判所との順守事項ですから。薬を抜いて、もう二度とやらないこと。順守できれば有名女優が芸能界に戻ってきたように、ASKA被告も戻ってくるのではないか」
保釈金は資力や逃亡・証拠隠滅のおそれの大小に依存するので,予想するのはやや難しい。薬物使用の一般人の場合,150万円~200万円程度とされることが多い肌感覚があるが,芸能人の場合,高額化する傾向にある。被告の資力を読み切れなかったということか。
しかし,判決はドンピシャで当ててきているのは凄い。まあ上記記事の予想は外してますけど。
★★★☆☆
□2014年05月09日 09時00分 東スポ
http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/264172/
いわゆるSTAP細胞を巡る事件である。疑惑の女性研究員が,理化学研究所を訴えるかどうかという文脈である。
板倉宏博士のコメント;
「訴えるとしたら民事で処分無効と名誉毀損となるでしょう。これまでの判例を見る限り、捏造には当たらないと思われます。改ざんと捏造の定義が争点になりますが、捏造とは『ないものをある』とすること。小保方氏の場合は真正の画像があるというので、捏造には当たらない」
「研究不正と認定された4月1日と今では状況が大きく変わりました。似た事例で調査委員会の委員長が辞任するなど、『違う見方ができるのではないか』という空気になっています。少なくとも理研は再調査をするべきでした」
「小保方氏は金銭目的ではないので、名誉毀損で何百万円程度の訴えになるのでは? 裁判では小保方氏が有利とは思いますが、そうでなくても全面的に小保方氏だけが悪いとはならないでしょう。相当な時間がかかるので和解もあるかもしれません」
判例で「捏造」に当たるかどうかが争われた事例? 問題になるのは定義そのものよりも,何が行われたのか,行われたことが社会的に非難されるべきことであるかどうか,それが解雇等の処分を基礎づけるに足りるかだと思われる。
得意の名誉毀損であるが,どのように構成するのであろうか。名誉毀損であれば理研ではなく,マスメディアを提訴した方が有効ではないかと思われるが・・・。
当職の感覚からすれば,小保方氏がそこまで有利とは思われないが,どうか。
★☆☆☆☆
□2014年02月14日 09時00分 東スポ
http://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/234542/
いわゆる「佐村河内事件」の件。
「聴力が回復しているのに3年間うそをついて手帳をせしめていたのだから、詐欺罪に当たります。ゴーストライターの問題で著作権でも詐欺をしているわけですから、併合で懲役15年以下の刑になる。実際は懲役3年ほどでしょう」
「手帳を自主返納したからといって、刑が軽くなることは絶対にありません。むしろ、それだけ話題になれば、当局は積極的に取り扱うでしょう」
聴力が回復しているのに,身体障害者手帳を返納しないのは,身体障害者手帳について定める身体障害者福祉法46条2号違反に該当する行為である。これは罰金刑しかない罪であり,詐欺罪が常に問題となる罪をわざわざ法定する意義に乏しく,詐欺罪が成立するかどうかは慎重に判断する必要があるように思われる。
そして,ゴーストライターの問題で詐欺罪が成立するとするのはかなり無理筋なような・・・。
なお,手帳を返納すれば,良情状として評価されるのは確実であると思われ,その意味では刑が軽くなるのは必定と考えられるがどうか。
☆☆☆☆☆
□2014年03月08日 20時00分 東スポ
http://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/242397/
これも前同様にいわゆる「佐村河内事件」の件。佐村河内氏が,告発をしたゴーストライターに対して名誉毀損で訴えることができるか,という文脈。
板倉宏博士のコメント;
「結論を言うと、とても通るとは思えません。何をもって名誉毀損と言っているか定かではありませんが、仮に新垣氏が言った『健常者のように会話できていた』『18年間何度もやめようと言った』という点を虚偽だと主張しているとしたら、厳しい。名誉を毀損されたことにならないからです。下手をすると、佐村河内氏が『虚偽告訴罪』に問われかねません。勝つ見込みはないでしょうね」
前段についてはほぼ同感。さすが名誉毀損訴訟の当事者になった板倉宏博士である。
後段の虚偽告訴罪に問われかねないとするのは疑問。というか,「名誉毀損で訴える」といえば民事の話になるのが通常では? なぜ刑事の話をしているのだろうか。
★★★☆☆
□2015年6月13日 05:30 スポニチ
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2015/06/13/kiji/K20150613010532510.html
事案を要約すると。「千葉県柏市で起こった通り魔強盗殺人犯について,無期懲役刑が言い渡された」もの。
板倉宏博士のコメント;
「通り魔の強盗殺人は、文字通りの無期懲役。塀の外に出てくることはない。模範囚だとしてもあり得ない」
「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について(平成26年10月更新)」(http://www.moj.go.jp/content/001127913.pdf)によれば,強盗殺人により無期懲役になった受刑者が仮釈放されている事例をいくつも確認することができる。この中には当然,通り魔的な犯行も含まれていたことであろう。
死刑をギリギリで回避したような場合や性犯罪のような場合にはかなり厳密に判断されるようであるが,被害者が2人以上の強盗殺人でも許可されている事例もある(たとえば9頁の171番)。
★☆☆☆☆
□2015/03/21(土) 17:17:42.88 元ソース不明
http://ai.2ch.sc/test/read.cgi/newsplus/1426925862/
事案を要約すると,「ラーメン店で客同士が口論となり,顔面や腹部を踏みつけて死なせた事案」である。被告人が事件直後に平然とラーメンを食べて「最後の晩餐」などとうそぶいていたことが話題になった事案である。
板倉博士のコメント;
「懲役7年という判決はとても不思議です。殺害した後にラーメンを食べていたことで逃走や証拠隠滅を図らなかったと評価して量刑2年くらい差し引いているのかもしれないが、こうした心証の悪いことをすれば通常、裁判員裁判ではもっと量刑が重くなる傾向にある」
本件では,求刑10年に対して,懲役7年が言い渡されたものである。板倉宏博士的には,懲役9年になるべきと考えているように思われる。しかし,第一東京弁護士会刑事弁護委員会発行の「量刑調査報告集Ⅲ」に掲載されている事案によれば,「建設会社社員寮内の被告人ら居室において,被害者に対し,その頭部をガラス製灰皿で1回殴打し,さらに,その場に倒れ込んだ同人に対し,その胸部等を数回足蹴にし,その頭部をビール瓶で殴打するなどの暴行を加え,同人に外傷性クモ膜下出血の傷害を負わせ,搬送先の病院において死亡させた」という事案で,前掲の執行猶予終了後約2ヶ月で,前科13犯(うち1件が累犯前科)である事案が,求刑10年に対して懲役9年が言い渡された事案である。それと本件とを比べると,120kgの巨漢であるものの武器を使用していないし,前科は不明であるが報道されてないあたり累犯前科があるような事案ではないと思われ,本件の方が軽いと思われる。若干量刑感覚がズレているようにも思われる。
★☆☆☆☆
□2011/12/07(水) 17:14:11.72 サンスポ
http://archive.2ch-ranking.net/mnewsplus/1323245651.html
事案は,「女子柔道部コーチが準強姦で逮捕された事例」である。著名なコーチであり,社会の耳目を集めた。
板倉宏博士のコメント;
「極めて悪質性が高いと判断され、準強姦罪が成立する要件を十分満たしている」
「未成年に飲酒させ、酩酊(めいてい)状態に陥らせて姦淫したのであろうし、自分が女子柔道部のコーチで、相手は教え子という上下関係もある。腕力の部分でも、締め上げられたら身動きが取れなくなることは容易に想像できるし、社会的影響も大きい」
「3~3年6カ月で、執行猶予はつかないのではないか」
実際は,準強姦罪で起訴され,懲役5年の実刑判決(上告棄却により確定した。)であった。実刑であることは正解,懲役の年数はハズレという結果に。やはりズレている。
★☆☆☆☆
□2012年07月16日 18時00分 東スポ
http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/23121/
事案は,「自殺者が出たいじめ事件jの加害者の刑事処分はどうなるか」というもの。
板倉宏博士のコメント:
「一般的には、14歳以上ならば刑事処分の対象になり、重大事件の場合は成人と同様に裁判所で裁かれることもある。一方、13歳の場合は刑事処分にはならないので家庭裁判所に送られることになる」
「暴行罪などで少年院送致もあり得るが、保護観察処分の可能性が高い」
「捜査に乗り出したといえ、教育委員会や学校の人間に刑事責任を問うのは難しい。被害届を受理しなかった警察も同様です」
14歳以上は刑事責任はあるとされるが,成人と同様に裁判所で裁かれることになるのは逆送が可能となる16歳以上の場合である。「成人と同様」という言葉は多義的であるが,少年であるがゆえの法的な減軽がなく成人と同じ刑罰を下すことができるのは,18歳以上である。
また,13歳の場合に刑事処分にならないのはそのとおりではあるが,。
おそらくは記者の理解力不足で正しい情報が掲載されていない可能性も多々あると思われる。しかしながら,このように複雑な制度をきちんと説明し尽くすことができないということでもあろう。
年齢も若いため,要保護性勝負になるであろう。事案によっては不処分・審判不開始も十分あり得る。
★☆☆☆☆
□2014年12月1日 18時28分 J-castニュース
http://news.livedoor.com/article/detail/9528615/
事案の概要は,「飲食店で女性客を監禁・強姦したとして逮捕された被疑者が不起訴処分となった。」というもの。
板倉宏博士のコメント;
強姦が疑われながら、検察が不起訴と判断することは、「まれにありうること」と語る。それは「嫌疑が不十分な場合」と「示談が成立している場合」の2つのケースが考えられるという。
嫌疑が不十分な場合とは、「元々、女性との間で性交渉の合意があったなどした場合」(板倉教授)が考えられ、そもそも強姦罪が適用されないケースだ。また、被害者との示談がすでに成立している場合、板倉教授は「性犯罪の場合、法廷に出ることで、事件がオープンになることを被害者側が嫌がることがあります」という。こうしたケースで、検察が起訴を見送ることが考えられるそうだ。
スポーツ新聞でないメディアに寄せたコメントである。スポーツ新聞とは違い,コメントと地の文を合わせるスタイルなのでコメントだけを取り出せなかったため,このような引用になっている。
前段部分,女性との間で合意があったのだとすれば,強姦罪の構成要件該当性が阻却されるわけで,不起訴裁定主文としては「罪とならず」になるのではないか。「嫌疑不十分」の例としては,「女性との間で合意があったことを否定できない場合」とするのが適切であろう。
後段部分は首肯できる。
★★☆☆☆
□2013年01月05日 16時00分 東スポ
http://www.tokyo-sports.co.jp/entame/69142/
事案は,「元アナウンサーが死亡事故を起こしたものの逮捕されなかった」というもの。
板倉宏博士のコメント;
「そもそも死亡事故を起こしたからといって、全員がそのまま逮捕されるわけではありません。本人も事件後、すぐに通報して取り調べに応じている。事故状況からみて、甚大な過失とも言えないと判断され、逃亡の恐れも低いために逮捕されなかったと思われます。当然捜査には協力しなければいけませんが、今後も逮捕されることはないでしょう」
「書類送検後に略式起訴され、50万円の罰金となると思います。遺族への賠償金については4000万~5000万円くらいではないでしょうか。ただ、当然、自賠責や任意の保険には加入されているでしょうから、その中から支払われることになるのでは」
前段は概ね首肯できる。もっとも,逮捕後勾留されずに釈放,というパターンが多いようにも思われるが,事案によることになる。
後段についても概ね首肯できる。賠償金の額については,看護師であったことからすれば,独身であったとしても死亡逸失利益が約4000万円ほど,死亡慰謝料が約2000万円ほどと見積もられ,指摘の額よりももう少し多額になるものと思われる(もっとも,赤本基準であるため,任意交渉でそこまで行くかは判然としないが。)。
保険についての言及はそのとおりであろう。
★★★☆☆
□J-CASTニュース / 2009年5月15日 20時51分
http://news.infoseek.co.jp/article/20090515jcast2009241250/
事案の概要は,「飲酒運転をしていた公務員が事故を起こして3児が死亡した事案の控訴審判決で,懲役20年の実刑が言い渡された」というもの。
板倉宏博士のコメント;
「25年いっぱいの懲役刑はありえないことですが、それでも、かなり厳しい判断だと思います」
「殺人でも、こんなに重くなりません。懲役10数年になることが多いです。傷害致死3人でも、懲役20年はなかなかありません。遺族や市民の処罰感情を反映したものでしょうが、自動車の事件に限って重い感じがします。(高裁は)危険運転致死傷罪を適用する前提で事実認定したとしか思えませんね」
「最高裁で判決がひっくり返るケースは、あまり多くありません。懲役20年より減刑される可能性がないわけではありませんが、今回は被害者の数が多いので、そのままの量刑になる可能性が強いでしょう」
「殺人でもこんなに重くならない」という文章の趣旨が判然としない。小児が被害者である場合,堕胎罪との均衡から成人が被害者である場合よりもやや量刑は軽く判断されることはそのとおりである(本件の被害者は,4歳,3歳,1歳であったところ,平成25年に10歳,8歳,4歳が殺害された鹿児島地裁の事案では懲役23年であった。)。しかし,このように書かれると,そのような考慮をしていないのではないか不安になる。
後段はそのとおりであろう。
★★☆☆☆☆
□2006.11.5 サンスポ(元ソースがないため転載されたブログを引用)
http://anti2ch.blog61.fc2.com/blog-entry-196.html
事案の概要は,「2chの創始者である『ひろゆき』氏が,数々の民事訴訟で敗訴しているものの,賠償金を支払わずに逃げている」というもの。
板倉宏博士のコメント;
「裁判所の強制執行で賠償金を“集金”できる」
「なぜ、これまで損害賠償を命じてきた裁判所が、強制執行を行わないのか不思議だ。西村氏は財産がないわけではないのに…」
うーん,裁判所が職権で執行できると理解しているとしか思えない書きぶり。強制執行しようにも差し押さえるべき財産がないような事案を扱ったことないのだろうか・・・。
☆☆☆☆☆