刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

ラストメッセージin法科大学院

はじめに

 ここに来て,法科大学院の淘汰(以下,「成仏」という。)が進んでいる。毎日のように,法科大学院が成仏したというニュースが飛び込んでくる。
 今でこそ毀誉褒貶のある法科大学院制度であるが,制度開始直後は「簡単に弁護士になって一山当てるぜ!」というギラついた雰囲気が漂っており,2期未修者として法科大学院に入学した当職は,そういう雰囲気に郷愁を覚えなくもない。
 当職自身も法科大学院制度に思うところは山ほどあるが,法科大学院を卒業して法曹資格を得た弁護士として,もとより一定の恩義は感じているところである。
 そんな法科大学院のことを考え,何か当職らしいことができないかを考え,「ラストメッセージin法科大学院」という論考を起案した。これは当職の発行する同人誌「大嘘判例八百選[第4版」」のために書き下ろしたものであり,同書や「大嘘判例八百選[総集編]」を手にした者のみしか見ることができなかった。
 法科大学院にこれから進学を考えている者,在籍している者,卒業した者,そして法科大学院を憂慮する者にとり,何かの参考になればと思い,ブログ上に公表することとした。
 なお,これと同時に「法科大学院判例百選」という論考も起案しているが,これは「大嘘判例八百選」を買ってね^^ ということにしておきたい。
 成仏してしまったローたちのこと,時々でいいから…思い出してください。

前文

 法科大学院判例百選でも触れたとおり,我が国における法科大学院は,平成26年に制度開始から10年を迎えた。
 68校で制度が開始され,ピーク時には74校まで乱立した法科大学院であったが,その後,人気が低迷し,そのうちの27校(平成27年6月3日現在)が学生募集の停止となった。
 学生募集を停止した法科大学院たちのホームページを見ると,挨拶文が掲載されており,そのような事態に至った理由や怨嗟の声を確認することができる。
 ここでは,著作権法の有名判例である「ラストメッセージin最終号」事件(東京地判平成7年12月18日判例時報1567号126頁)をもじり,学生募集を停止した法科大学院の挨拶文について引用し,論評していくこととする。
 題して「ラストメッセージin法科大学院」である。掲載順は,募集停止の公表順である(編注:原典では,募集停止年度順に並べていたが,Web公開に当たり変更した。)。

姫路獨協大学法科大学院】 1番目

 平成22年5月27日付けで,平成23年度からの募集停止を公表。学長名義。
引用:[本法科大学院については、既に報道されたとおり2010年度の入学試験において合格者がありませんでした。このことから学内で検討した結果、今後、法曹界において活躍できる十分な能力を持った学生を確保することが困難と判断いたしました。加えて全国的にも法科大学院の受験生は年々減少し、司法試験合格者(率)も法科大学院制度発足時の想定よりも大きく下廻っていることも判断材料のひとつであります。]
http://www.himeji-du.ac.jp/news/details.php?id=464
 引用したとおり,2010年度の法科大学院入試において合格者がいなかったことが原因であるとしている。一見すると「司法試験に合格した者がいなかった」ようにも思えるのだが,「法科大学院入試に合格した者がいなかった」が正しい。
 その後,なぜか医療保健学部に言及し,国家試験の合格率及び内定率で高い実績を上げていることを紹介している。このため,法科大学院関係者というよりも,大学本体を憂慮する者に「法科大学院は失敗しましたが,その他では頑張っています。」というアピールをする挨拶文ということができるのではないだろうか。「法科大学院で一山当てる!」と思っていたのは,何も受験生サイドのみならず,大学側もそうだったのではないかと思ってしまうのは当職だけであろうか。

明治学院大学法科大学院】 2番目

平成24年5月28日付けで,平成25年度から募集停止を公表。教授会名義。
引用:[①司法試験合格者数が当初の予定に沿って増加していないため、法科大学院入学のリスクが高くなり、その結果、法科大学院受験者数の減少、とくに志ある社会人の受験者が大きく減少しています。]
引用:[②また、理論と実務を架橋した教育の要をなす実務教育、臨床教育を有効に遂行するには一定数以上の学生が必要ですが、今後、これを安定的に確保できない可能性があります。]
http://www.meijigakuin.ac.jp/~lawyers/info/20120528.pdf
 募集停止に至った思考過程が表明されていて,非常に分析的である。教授会による発表であることが影響しているか。
 ところで,「司法試験の全体合格率が低いのが悪い。」とだけ主張する法科大学院は多いが,合格率が低くても人気の高かった旧司法試験との対比で考えると主張自体失当であるように思われる。その点,明治学院大学法科大学院では「合格率が低いためリスクが高い。」と指摘していて,正鵠を射ていると評価できる。
 その他,適性試験の入学最低基準点制度に対する批判もしており,法科大学院問題を考えるのに当たっても非常に有益な挨拶文となっている。

大宮法科大学院大学】 3番目

平成24年6月1日付けで,平成25年度から募集停止を公表。学長名義。
引用:[大宮法科大学院大学(設置者学校法人佐藤栄学園)は、平成23年8月8日付けの発表のとおり、桐蔭法科大学院(設置者学校法人桐蔭学園)との統合により、平成25年度からの学生募集を停止することを決定致しました。
 今後、大宮法科大学院大学は、平成24年度生の修了をもって閉学されます。その間、在学生の皆様への教育及び研究生(司法試験受験生)となられた方々への司法試験受験指導などにつきましては、これまでどおり万全を期して臨んで参ります。
 在学生、修了生その他大学関係者及び地域の皆様の今までのご厚情に対し心から御礼申し上げますとともに、学生募集停止に至りました事情をご賢察いただき、今後ともご協力とご鞭撻をお願い申し上げます。](全文)
http://www.omiyalaw.ac.jp/topics/2012/06/post_67.html
 非常にシンプルな挨拶文である。
 ラストメッセージin最終号事件では,創作性が争点となり,創作性の判断が分かれていた。この挨拶文は同事件との関係でいえば創作性がないということになろう。

神戸学院大学法科大学院】 4番目

平成24年7月4日付けで,平成25年度から募集停止を公表。①学長名義。
同日付で,②研究科長名義の挨拶文も公表している。

引用:[神戸学院大学の建学の精神「真理愛好・個性尊重」を教育の指針とし、地域社会ならびに市民生活に安定を与える「智慧ある法曹」を輩出するための教育的努力を重ね、一定の成果をあげてまいりました。しかしながら、現在の法科大学院の実態は、この理想を離れ、法学部以外の学生がほとんど参入できない一極集中型の教育が行われ、結果、本学のような法科大学院の立場を根底から危うくしてしまいました。]
http://www.ls.kobegakuin.ac.jp/~lstopweb/v03/docs/announce20120704_01.pdf

引用:[社会人をはじめとするいわゆる「未修者」の司法試験合格率が「既修者」のそれを大きく下回る現実に直面するとともに、法科大学院入試制度においても当初設けられていなかった様々な規制が設けられました。このような状況の下、本法科大学院の受験者・入学者が大幅に減少する事態になりました。]
http://www.ls.kobegakuin.ac.jp/~lstopweb/v03/docs/announce20120704_02.pdf
 珍しい,学長+研究科長のツープラトン挨拶文。
 未修者を重視し,地域の社会人経験者等を受け入れてきた法科大学院のようで,それがために司法試験の合格率が高くならず,人気が低迷したことが募集停止の原因であると分析している。
 他分野から法曹を志す未修者を重視するのこそ,司法制度改革の主眼であったはずで,そういう意味では「定評ある法科大学院」の既修者が一人勝ちしている現状は本末転倒な結果であろう。神戸学院大学法科大学院には深く同情するものである。

駿河台大学法科大学院】 5番目

平成24年7月6日付けで,平成25年度から募集停止を公表。学長名義。
引用:[特に、新司法試験合格者の拡大は当初の構想のようには進まず、更に、法曹の社会幅広い分野へ進出は遅々として拡大せず,更に,法曹資格を得ても,多くの者が法律事務所等に就職できないという事態が生じています。その結果,法曹界に進もうという有為な人材が年を追って大幅に減少したことにより,多くの法科大学院で入学者が大幅に減少するという事態に陥り,本学法科大学院も2012年度新入生は,前年度の24名から5名へと急減してしまいました。]
http://www.surugadai.ac.jp/important/surugadai%20law%20school%2020120706.pdf
 現状分析部分を引用。法科大学院の苦戦とその要因についての議論がかなり煮詰まっているように思われる。

東北学院大学法科大学院】 6番目

平成25年3月7日付けで,平成26年度から募集停止を公表。①学長名義。②研究科名義。

引用:[法律専門家としての弁護士の社会的活動の場は、十数年前、法科大学院制度が準備された頃に想定されたほど拡大しませんでした。また、司法試験の年間合格者数を3,000人に増やすという計画も実現されず、いまだに2,000人強の合格者で足踏み状態となっています。そのためもあって、法科大学院進学希望者は全国的に大きく減少し続けています。本学法科大学院もその影響を強く受け、志願者数、入学者数とも減少が続いてきました。]

引用:[これまで、入学者減という深刻な状況は放置されていたわけではありません。研究科としては、充実した教育こそこうした事態への正当な対応であると考え、課外の指導を含め各種の教育上の工夫と努力を続けてきました。また、大学全体や大学設置母体の理解を得て、学生の大幅な学費軽減も実現しました。さらには東北地方での広報活動にも力を注いできました。こうした措置を講じてもなお、事態を改善できませんでした。]
http://www.tohoku-gakuin.ac.jp/info/top/130307-1.html
 ①では,合格者が増えない点よりも前に,弁護士の職域が拡大しないことを原因として指摘しているようである。法曹人口を増やすという議論が,弁護士を増やす議論にすり替わっている典型的な事例のような印象を受ける。②では,努力を続けてきたのにダメでした,という怨嗟の声が聞こえる。
 ただ,①,②を通じて,司法試験合格率についての指摘がないのが注目される。

大阪学院大学法科大学院】 7番目

平成25年6月3日付けで,平成26年度から募集停止を公表。研究科長名義。
引用:[このような傾向は,有職社会人を積極的に受け入れてきた本学法科大学院にとって特に大きな打撃となりました。]
http://www.osaka-gu.ac.jp/news/2013/06/pdf/law-school.pdf
 この法科大学院も,未修者特化で取り残されたパターンのようである。
 入試の倍率・司法試験の合格率・定員の充足率等により公的支援を段階的に打ち切るという施策についても言及しており,同施策が青息吐息の法科大学院にとって事業の続行を諦めさせるのに十分な威力があったことを物語る。

島根大学法科大学院(山陰法科大学院)】 8番目

 平成25年8月26日付けで,平成27年度から募集停止を公表。研究科長名義。
引用:[このような状況に至った原因は,山陰法科大学院そのものだけにあるのではありません。しかし,山陰法科大学院としても,志願者・入学者を増やす取組と司法試験の合格者を増やす取組をさらに強める必要があります。特に司法試験合格者を増やすことが重要です。
  そこで,他大学の法科大学院と一緒になり連合法科大学院を作り(これを連合化という。),この連合化により,双方の法科大学院が共通に抱えている課題と問題点または山陰法科大学院が独自に抱えている課題と問題点を,それぞれの教育実績とノウハウを基に克服し,志願者・入学者を確保するとともに,教育の質を飛躍的に向上させ,全国平均以上の司法試験合格者を出すほどの実践的教育力を高めることができる途があると考えました。]
http://www.lawschool.shimane-u.ac.jp/docs/2013061800098/
 このリリースで募集停止を公表したわけではなく,前日付けで新聞報道にてリリースをしたところ,正確に伝えられなかったために改めてリリースを出したというもの。
 「山陰法科大学院そのものだけにあるのではありません」と,ある意味の開き直りを見せていて,それをバネにしていわゆる広域連合法科大学院の設立を模索しているのは凄い。
 ただ,厳しいことをいえば,「山陰法科大学院そのものだけにあるのではありません」と言いながら,悪かった点について分析していない点が気になる。何が悪かったのか分析しないままに突っ走ってしまえば,次の施策もうまく行くかどうか,支援者も不安になると思うがどうか。

東海大学法科大学院】 9番目

平成25年10月17日付けで,平成27年度から募集停止を公表。学長名義。
引用:[近年は新司法試験合格率の低迷や弁護士の就職難などを背景に、法科大学院全体の志願者数は全国的に減少の一途をたどっており、それは本学においても例外ではありません。本学では入学定員の削減やカリキュラムの見直しなど法科大学院改革を進めてまいりましたが、効果は限定的であり、現在までに志願者・入学者の減少に歯止めがかかっていないのが現状です。]
http://www.u-tokai.ac.jp/TKDCMS/News/Detail.aspx?code=law_school&id=6589
https://megalodon.jp/2017-0725-1305-14/web.archive.org/web/20140429050047/http://www.u-tokai.ac.jp/TKDCMS/News/Detail.aspx?code=law_school&id=6589 (インターネットアーカイブスクリーンショットの,そのまた魚拓)

 「法科大学院改革」の中身があまり具体的な内容でないのが気になる。改革を具体的かつ適切に実施できない法科大学院は,簡単に募集停止に追い込まれるということだろうか。

大東文化大学法科大学院】 10番目

平成25年12月19日付けで,平成27年度から募集停止を公表。理事長,学長,研究科長連名。
引用:[今後も、本学からの司法試験合格者が飛躍的に増加することは難しく、本学法科大学院の最大の特色であり、強みでもある未修者や社会人学生の教育に力点を置く方針については、入学者の「多様性」確保という観点で高く評価される一方で、その成果を社会に示すことは極めて難しいと判断するに至りました。]
http://www.daito.ac.jp/news/details_8554.html
 かなり怨嗟の声が聞こえる案件。法科大学院に対して批判的な発言をすることの多い当職としても,未修者重視の法科大学院が廃止されていくことについてはかなり同情的である。

信州大学法科大学院】 11番目

平成26年2月12日付けで,平成27年度の募集停止を公表。①研究科長名義,②学長名義(学長声明)。

引用:[しかしながら、本研究科におけるこれまでの司法試験合格者の実績は、皆様のご期待に十分応えられるものではありませんでした。本研究科の努力が至らなかったことにつきましては反省すべき点が多々あります。しかし、今回の決定の背景として、法科大学院を取り巻く状況が年々非常に厳しくなりつつあることも、ご理解いただきたく思います。]
http://www.shinshu-u.ac.jp/graduate/law/images/news_20140212.pdf

②引用:[ 地域の方々をはじめ、御支援いただきました皆様に、この様な措置を採らざるをえなくなりましたことを御理解いただきますようお願い申し上げますとともに、これまで法科大学院にいただきました多大なる御支援、御協力に心より厚く御礼申し上げます。
信州大学はこの経験を今後にいかしてまいりますので、引き続き御指導、御鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。]
http://www.shinshu-u.ac.jp/news2/2014/02/post-202.html
 学長声明まであるパターン(リリースpdf中の学長声明へのリンクが切れているのはどうにかして欲しい。)。
 分析や反省はあまりなく,どちらかというと,関係者に対して,これまでの協力に感謝する内容となっている。
 国の施策によるところが大きいと,どうしても反省という方向には話が行きにくいのだろうか。同じ国立大学である島根法科大学院も同様であったところをみると,色々と考えさせられる。

関東学院大学法科大学院】 12番目

平成26年3月14日付けで,平成27年度から募集停止を公表。学長名義。
引用:[しかしながら、法科大学院制度導入時に目標とされた年間3,000名の司法試験合格者数は、2,000名程度に留まり、弁護士需要が当初予測より低迷するなどの社会的要因もあり、全国的に法科大学院への進学希望者が年々減少する状況にあります]
http://univ.kanto-gakuin.ac.jp/content/files/topics/news/2014031401/20140314.pdf
 弁護士の職域拡大が進まないということではなく,弁護士需要が予測より低迷していることを打ち出している点が,現状分析としては非常に正しいように思われる。

新潟大学法科大学院】 13番目

平成26年3月17日付けで,平成27年度から募集停止を公表。研究科長名義。
引用:[また、この点に関しては、新潟から首都圏まで新幹線で2時間という本研究科の立地条件や、本学法学部では東日本全域から入学者が集まり、県外出身者が7割を占めるため、法学部卒業後は新潟県外での進学・就職を目指す者が多いという特殊な事情も、結果的に法科大学院志願者の他地域への流出をもたらした面があると考えられます。]
http://www.jura.niigata-u.ac.jp/~ls-web/news.php?id=5322d1be154e1
 ごく一部で話題になった
「新幹線に負けた法科大学院」
のリリースがこれである。
 上記引用部分の他にも原因は挙げているので,短絡的に「新幹線に負けた」と理解してしまうのはミスリーディングであるように思われる。
 このほか,時系列的には,予備試験の存在を指摘するリリースとしては全国でも初ではないか。
 非常に頑張っている法科大学院であることが伝わってくるだけに,関係者の無念さもひとしお,といったところだろうか。

龍谷大学法科大学院】 14番目

平成26年3月28日付けで,平成27年度から募集停止を公表。学長名義。
引用:[本学には、1968年に法学部を創設して以降40有余年もの長きにわたる歴史のなかで連綿と受け継がれてきた法学教育の伝統と実績があります。これを継承しつつ、法科大学院において培った法曹養成の経験を加えて、法学部における今後の教育を一層充実させるべく、学部全体の教学改革とともに、従来の法曹志望者に加え、法律系公務員志望者、法律関係職志望者等を対象に、「少人数授業」、「目標とする卒業生との交流」、「現場からの動機づけ」の3つの指針を基調とする新たな法学教育の検討を進めてまいります。]
http://www.ryukoku.ac.jp/news/detail.php?id=5689
 法学部の教育を充実させようというパターン。法律系公務員志望者、法律関係職志望者を対象にしている点が注目される。法科大学院制度開始当初に,法科大学院フィーバーに敢えて乗らずに,このような志望者に対する教育の充実を訴える大学があってもよかったのではないかと常々思っていたが,このような状況で気付いても文字通り後の祭りだということだろうか。

久留米大学法科大学院】 15番目

平成26年3月31日付けで,平成27年度から募集停止を公表。学長名義。
引用:[本学では入学定員の削減や入試制度の見直しなど法科大学院改革を進めてまいりましたが、効果は限定的であり、現在までに志願者・入学者の減少に歯止めがかかっていないのが現状です。]
http://www.kurume-u.ac.jp/announce/kouhou/info2013/20130095.htm
http://megalodon.jp/2015-0603-1652-22/www.kurume-u.ac.jp/announce/kouhou/info2013/20130095.htm (魚拓)
 引用部分について,どこかで読んだことがあるような・・・と思ったら,東海大学法科大学院のラストメッセージの完全コピペですねこれは。前後の部分も多少のアレンジはあるもののだいたい同じ・・・。本当に「ラストメッセージin法科大学院」事件が起こりそうな案件を掘り当ててしまった(呆れ)。

鹿児島大学法科大学院】 16番目

 平成26年4月25日付けで,平成27年度からの募集停止を公表。①研究科長名義,②学長声明。

引用:[法科大学院については、制度の開始当初、全国的に非常に多くの志願者を集めましたが、その後の減少傾向は、制度設計の想定を大きく超えるものでした。鹿児島大学法科大学院としては、徹底した教育改善の取組はもとより、試験会場の増強、既修者制度の導入、30名から15名への定員削減、研究科独自の奨学金制度の実施などの方策を講じてきましたが、定員充足状況の改善につながることはありませんでした。]
http://www.ls.kagoshima-u.ac.jp/old-info/data/past-news/pdf/26/4/20140425.pdf

引用:[鹿児島大学は、「進取の精神」を有する人材養成のため、地域の将来と地方大学の果たすべき役割を見据え、地域の期待に応え、その将来に最大の貢献をすることに総力を挙げて取り組みます。司法政策研究科での経験・蓄積を発展的に継承して、鹿児島大学の法学教育の新しい取組を実現していきます。そして、今後も地域の法曹志願者に将来への道筋をつけるための工夫と努力を継続し、地域の法学教育機関としての責務を果たします。]
http://www.kagoshima-u.ac.jp/important/2014/04/post-23.html
 法科大学院はなくなっても,何らかの形で法学教育を継続したい,というパターンもよく見られる。法学部は残るわけで,そういう意味では法学教育から撤退するわけでない,ということを強くアピールしているのかも知れない。
 ただ,法科大学院フィーバーのときに自重して,本学のように法学部中心の法学教育を指向する大学が多くあれば,このような事態にはなっていなかったのではないかと思ってしまう。「法科大学院を作らなければ取り残される。」という焦りが今の現状を生んでいると考えると,素直には同情できない部分もある。

香川大学法科大学院香川大学愛媛大学連合法務研究科)】 17番目

 平成26年5月20日付けで,平成27年度から募集停止を公表。研究科長名義。
引用:[これまでも我々は、入学定員の削減、カリキュラムの改革、教員相互による授業見学、四国弁護士会連合会との共同FDの実施、自主ゼミの充実等、様々な自己改革に組織的に取り組んで参りました。しかしながら、四国ロースクールへの志願者、入学者の確保はますます困難になる一方です。この状況については、我々の力不足もさることながら、法科大学院制度をめぐる近時の大変厳しい状況が大きく影響を与えていることも否定できません。]
http://www.ls.kagawa-u.ac.jp/news_topics/2014/0520-1500.html
 四国唯一の法科大学院であり,無念も大きいところであろう。
 平成27年度から募集停止をする法科大学院は,このように地方を背負って法科大学院を設立したところが多い。「定評ある法科大学院の学生が司法過疎地に行かない」というデータがあったが,それと地方の法科大学院の衰退とを,どのように整理して考えればよいであろうか。


広島修道大学法科大学院】 18番目

平成26年5月27日付けで,平成27年度から募集停止を公表。①研究科長名義,②学長名義。

引用:[このような厳しい状況の中で、本学法科大
学院としては、これまでの実績を踏まえて今後も法曹養成の一翼を担い続けるために存続に向けた努力を続けてきましたが、十分な成果をあげることができず、逆風を跳ね返す道筋を見出すことができませんでした。誠に申し訳なく思います。]
http://www.shudo-u.ac.jp/news/8a217100000purgj-att/8a217100000purko.pdf

引用:[本法務研究科の設置は、1976 年4 月に中国四国地方で初めての法学部を設置した本学にとっては、選択の余地のない決断でした。]
http://www.shudo-u.ac.jp/news/8a217100000purgj-att/8a217100000purm7.pdf
 法科大学院設置についての決断の理由まで示すのは珍しいパターン。このほか,「事前規制型から事後チェック型へ」などというフレーズも出てきたり,非常に読み応えのあるものになっている。

獨協大学法科大学院】 19番目

平成26年6月17日付けで,平成27年度から募集停止を公表。①学長名義,②研究科長名義。

引用:[しかし、全国的に法科大学院志願者が激減する中、本学法科大学院においても入学者減や定員割れなど厳しい状況が続き、将来の見通しを確保できない状況となり、今回の苦渋
の決断に至りました。]
http://www.dokkyo.ac.jp/news/detail/id/3543/odir/ka_lawschool/

引用:[全国統計的に見ても法学未修者の司法試験合格率は既修者に比べ高くはないことが明らかになっていますが,司法制度改革の理念どおりに法学未修者,社会人を基本とする本学法科大学院としては,おしなべて示されたそしてそれのみの司法試験合格率の報道には苦しめられてきました。(もっとも,法曹をめざして法科大学院へ進学してきた学生の志を遂げさせてあげられなかった者がいることについては,学生一人一人の顔を思い浮かべながら,いろいろな思いと,もっとやれることがあったのではないだろうかとの思いを強くします。)]
http://www.dokkyo.ac.jp/PDF/4bf8ad05e9e9dbc6a071d55e2dd16cbb.pdf
 学長のものは,コピペ感溢れる印象を受ける(わざわざ検証しませんけど。)。
 研究科長のものは,お人柄がうかがわれる暖かいエピソードが紹介されている。

【白鷗大学法科大学院】 20番目

平成26年6月26日付けで,平成27年度から募集停止を公表。①理事長・学長連名,②院長名義。

引用:[司法試験という点だけの準備に回帰する悪影響は、大都市圏以外の地方で地道な教育を展開する法科大学院の存在意義を根底から揺るがし、少なからぬ数の法科大学院が既に撤退を表明する中で、本学の法科大学院も同様の傾向を免れませんでした。]
http://hakuoh-lawschool.jp/wp-content/uploads/2014/06/fb4a868ff87f71198c175e40e9efebf8.pdf

引用:[本法科大学院は、法学未修者からの教育に重点を置き、いわば富士山を五合目から登る者に対してだけではなく、一合目から登ろうとする者に対しても、粘り強く学びの場を提供してきました。]
[本法科大学院を法曹養成の海を航行する練習船に例えれば、乗客である在学生・修了生が、乗員である教職員とともに、目的地の港へ向かって訓練航行を続ける限り、本船たる本法科大学院は少しも変りなく所定の課程を実施して参ります。それは、本法科大学院が負う当然の責務です。]
http://hakuoh-lawschool.jp/wp-content/uploads/2014/06/e6d446a42d3178c39a539ff0e8295f69.pdf
 コピペ感ある文章ではなく,ハイセンスな文章で読み物としても非常に読ませるメッセージになっている。もっとも,それが法学教育との関係でどう役に立ったのかは・・・。


東洋大学法科大学院】 21番目

平成26年9月22日付けで,平成28年度から募集停止を公表。①院長名義,②学長声明。

引用:[また経済的理由によって法曹への道を断念せざるを得ない者にもその可能性を提供するため、東洋大学を挙げて支援に取り組み、学費を大幅に減額し、特待奨学生の制度も導入しました。さらに本法科大学院は、学外では法科大学院を設置していない大学を訪問して社会における法曹の重要性と本法科大学院の特色を説明し、学内では「法律学習会」という講座を開講してすべての学部の学生に法曹を目指す契機を提供するなどして、このような厳しい環境の中で志願者を開拓する努力を続けてきましたが、力及ばず、入学志願者の増加を達成することができず、結果として司法試験での十分な成果を上げこの厳しい状況を好転させることはできませんでした。]
http://www.toyo.ac.jp/site/glws/55391.html

引用:[しかしながら、法科大学院志願者が全国的に減少の一途をたどり、本学法科大学院においても志願者数、入学者数とも減少が続き、定員割れの厳しい状況が続いておりました。]
http://www.toyo.ac.jp/site/news/55390.html
 法科大学院側の努力が伝わってくる文章だが,努力が伝われば伝わるほど,「大学側は悪くない,魅力を理解しないお前らが悪い」と受け止められてしまいかねない。実際にもそう思っているのかも知れないが(爆)。


静岡大学法科大学院】 22番目

平成26年10月14日付けで,平成28年度から募集停止を公表。研究科長名義。
引用:[しかしながら、3、4年ほど前から、法曹養成制度全体が大きく揺らぎ始め、司法試験合格者総数の抑制、法曹志願者の大幅な減少、予備試験制度の導入と司法試験受験の途として予備試験を選択する者の増加等の理由により、本来、法科大学院制度が掲げてきた「プロセスとしての法曹養成」という理念が軽視され、いかに短期間で効率的に司法試験に合格するかという側面が重視される傾向が生まれてまいりました。その結果、とりわけ、地方に所在する小規模な法科大学院にとっては、入学志願者の大幅な減少という厳しい現実に直面せざるを得ない状況を迎えることとなりました。]
http://www.ls.shizuoka.ac.jp/news/kiji/#20141014
 静岡大学にはもともと法学部は存在せず,法学部のない法科大学院であった。その意味ではチャレンジングな試みであったと思う。実践的な実務科目も多く,面白い教育を行っていたようにも思われる。
 引用部分では,「プロセスとしての法曹養成」を軽視されたのが原因と分析している。しかし,「プロセスとしての法曹養成」を軽視したのは誰なのであろうか。この書きぶりからは,学生や予備試験受験者としか読めない。だが,真に軽視しているのは,先進的な実務教育をしようがなんだろうが,それが評価されない司法試験制度そのものではないかと当職は考える。
 なお,本学も他の大学との連携も模索しているようである。

追補

 以下,原典脱稿後に募集停止を公表した大学院である。追補として掲載する。

愛知学院大学法科大学院】 23番目

平成26年12月18日付けで,平成28年度から募集停止を公表。研究科長名義。
引用:[法曹養成制度の全体像に目を転じてみますと、司法試験合格者総数の抑制、法律事務所での採用数の低迷等法曹需要の伸び悩み、さらには予備試験制度の導入などにより、法科大学院制度によって本来目指されたはずである「広い法的素養を身につける『プロセスによる法曹養成教育』」への余裕は失われ、法科大学院の本来の役割と機能を十分に発揮することができない状況が続いております。]
[修了後も、本研究科修了生に対する司法試験受験およびパラリーガルや企業法務関係等への就職のための支援を継続いたします。在学生および修了生の皆様は、この点はご心配されずに、今まで通り勉学に励んでいただきたいと思います。]
http://www.agu.ac.jp/graduate/lawschool/news/news157.html
 就職のための支援を謳っているのは非常に珍しいパターン。「紹介する余裕はない。」などと言い放った某法科大学院も見習えよな^^;;;

熊本大学法科大学院】 24番目

平成27年3月13日付けで,平成28年度から募集停止を公表。学長名義。
引用:[これまでに42人の司法試験合格者を輩出し、そのうち24人が熊本県内で弁護士として活躍するなど、地域における弁護士偏在の解消に一定の役割を果たしてまいりました。]
[平成25年7月には法曹養成制度関係閣僚会議において「法曹養成制度改革の推進について」が決定され、司法試験合格者の目標数3,000人が撤回されたところです。これを受け、同年11月には文部科学省より「法科大学院の組織見直しを促進するための公的支援の見直しの更なる強化について」が示されました。]
http://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/koho/20150313
 地方に根付いた法曹を輩出したことを強調していますね。やはりこういう法科大学院がなくなってしまうことには抵抗を覚える。
 文科省公的支援の見直しについて言及している初めての挨拶文である。やはり文科省の支援がクリティカルだったか。

京都産業大学法科大学院】 25番目

平成27年3月2日付けで,平成28年度から募集停止を公表。①学長名義,②研究科長名義。

引用:[法科大学院設立の理念を受け継ぎ、法学部及び法学研究科を含む本学の法学教育の実施体制をさらに強化し、「法教育総合センター(仮称)」の設置や法学研究科博士前期課程に実務経験者の受け入れ枠を設ける(1年修了コースの設定)など、法学教育の抜本的刷新を行うこととしております。]
https://www.kyoto-su.ac.jp/more/2015/305/20150302_news.html

引用:[本学法科大学院も、平成16年4月の設立以来、着実に法曹を育ててきました。その中には、司法過疎地や法テラスで地域の法律問題に向き合う「司法改革」の理念を体現する者が多数います。また、残念ながら司法試験の合格には至らなかった者にあっても、隣接士業や企業の法務部、行政機関などで、本学法科大学院での学びを基盤として社会に貢献する人材を送り出してきました。]
https://www.kyoto-su.ac.jp/graduate/pro/lawschool/news/20150302_news02.html
 別組織で,法曹養成のための教育を続けるパターンは最近よく見られるパターン。
 「隣接士業や企業の法務部、行政機関など」に人材を輩出するのであれば,従来の法学部教育で足りたのではないか,と思ってしまう。

山梨学院大学法科大学院】 26番目

平成27年6月1日付けで,平成28年度から募集停止を公表。研究科長名義。
引用:[大都市から少し距離を置く小規模法科大学院である特徴や利点を活かしながら、法科大学院棟・研修ハウス・寮の設備を含め最良の勉学環境の提供、教員・特別講師・チューター等による成長力向上の教育・指導の推進、司法試験の合格者の輩出と就職支援等により、「学生支援NO.1」の法科大学院をめざしてきました。]
法科大学院は発足以来、国の政策等に「翻弄」されてきました。わたしたち法科大学院関係者の本音は、「もっと落ち着いて、本法科大学院がめざす教育に当たりたい」ということでしたが、法科大学院制度は年を経る毎に落ち着くどころか、とりわけ中小の法科大学院つぶしとしか思えないような流れができ、その動向が加速されました。それに対し、各法科大学院も実際のところ自分の大学院を守ることに精一杯で、法科大学院全体として有効な手だてを打ち出せていない状況です。]
http://www.ygu.ac.jp/yggs/houka/information/20150601.html
 国の政策に対して,ここまで明示的に不満をぶつける挨拶文は初めてではないか。その主張は理解できなくもないところであるが,結局のところ,優秀な学生を集められず,良い教育も施せず,合格率を高められなかったのが問題なわけでしょ?(マッチョな意見)

神奈川大学法科大学院】 27番目

平成27年6月2日付けで,平成28年度から募集停止を公表。研究科委員長名義。
引用:[2013年度修了生までの計198名の修了生の中から、これまで実施された9回の司法試験において計46名の合格者を出しました。その合格者は、司法修習の後に全員が裁判官や弁護士の資格を得ており、就職率は100%になっています。]
[この結果、法科大学院の志願者・入学者が法学既修者を中心に一部の大手大規模校に集中し、本学を含む地方の小規模法科大学院では志願者・入学者が激減して入学定員を大きく下回る事態に至っています。また、司法試験合格率の低迷は、法科大学院教育にも強い影響をもたらし、自由で特色ある教育の余地は縮減して、受験にシフトした教育課程や教育方法の画一化を招くようになりつつあります。]
http://lawschool.kanagawa-u.ac.jp/news/index.php?c=topics_view&pk=1433136742
 「弁護士の資格」を得たからといって就職したというわけではないのでは?
 受験にシフトした教育に画一化したのなら,合格率は向上するはずでは?

まとめ

 以上のとおり,27校のラストメッセージを振り返ってみた。読ませる文章からコピペまで,法科大学院のラストメッセージにも種々のものがあった。
 思いつきで書き始めた割には,今後の法科大学院制度を考えるのに当たって,リアルで参考になる論考になったのではないかと思っている。
 今後もラストメッセージが出ないことを祈りつつ,出たときには速攻でツイートしてやろうと誓って筆を置こうと思う。