刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

「弁護人選任届の実務(2)」

はじめに

  ということで,弁護人選任届,略して「弁選」,萌え4コマっぽくして「べんせん!」,最近のラノベっぽくして「万引き女子の弁護人になろうと思って当番出動したら,さっそく別口で私選弁護人がついていたんだがどうすればいいんだろうか」の実務の第2回をお送りしようと思います。

 前回は,弁選に弁護人が署名押印する必要があるかどうかについて論じました。「起訴前は署名押印が必要,起訴後は記名押印で足りる」ということで,実務的にはどんな場合でも署名押印すべし,ということで問題ないと思います。

 今回はもうひとつの有名な論点についてです。

 

今回の論点-「起訴前の弁選をどこに提出すべきか」

もうひとつの論点は,「起訴前の弁選をどこに提出すればいいのか」です。

前回も勉強した刑訴規則17条、18条によれば,起訴前は「当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員に差し出した場合」,起訴後は裁判所と規定されています。

起訴後は裁判所なので分かりやすいですね。疑義もないです。

では,起訴前はどちらに提出すればよいのでしょうか。

条文を文字通り解釈すれば,起訴前は司法警察員,検察官のどちらに提出しても構わないように読めます。しかし,実務的には,「送致前は司法警察員,送致後は検察官」という扱いがされています。

たとえば,東京弁護士会の以下の記事でも,特段の理由付けもなく上記取扱いが紹介されています。

http://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2010_04/p30-31.pdf

 

「当該被疑事件を取り扱う」という意味では,送致後も司法警察員は補充捜査等をしますので,当該被疑事件を取り扱わなくなるわけではありません。また,犯罪捜査規範133条は,弁選について定めていますが,送致前後で取扱いを変えるようには定めていません。

 したがって,私見では送致後も司法警察員に提出して差し支えないものと考えます。送致の前後で提出先が変わるのであれば,そのように刑訴規則に明記すべきでしょう。まして,法律ではなく規則なのですから,法律よりも変更しやすいでしょう(いや,詳しく知りませんけどw)。

 

 こんな議論に実益があるのか? とロー生や修習生は思うかも知れません。しかし,弁護人からすれば,担当検察庁が遠い一方で警察署が近所,というケースなんかだと,警察署の方に出したくなったりすることがあるのです。ここらへんは究めて実務感覚なのですが,こういう話ってローでは習わないですし,司法試験でも問われないですもんね・・・

 ただ,当職も送致後に警察に弁選を持っていったことはありますが,司法警察員は簡単には受け取ってくれず,どうしても押し問答になりますね。当職は結局諦めましたが,押し問答の末に提出したとしても,司法警察員が扱いに困って弁選を放置されてしまい,弁護人として扱われないリスクも高いように思われます。

 結局,送致前後で取扱いを変える実務には乗っかっておいた方がいいのかもしれません(前回もそんな結論だったような・・・。)。

 

・・・しかし

 しかしながら,上記取扱いを誤解したのか,「送致前」に弁選を司法警察員に提出したところ受領を拒否された,という事例をまれによく耳にします。

司法警察員が弁選を受領することがありうるのは,刑訴規則はもちろん,犯罪捜査規範にも定められています。それなのに,その義務を怠り,唯一の提出先である司法警察員が受領しないというのは,弁護人選任権を違法に侵害する行為であるとの誹りを免れないでしょう。

 

提出先のまとめと補足

 提出先を簡単にまとめると,次のとおりになります。

 送致前 司法警察員

 送致後 検察官(or司法警察員

 起訴後 裁判所

 弁選の宛名は,それぞれ「警察署」「検察庁」「裁判所」でいいと思います。

 裁判所に提出する場合は,被告人から起訴状を見せて貰って管轄を確認しましょう。

 警察署に提出する場合は,たまに留置場所と捜査を担当している署が違ったりするので,提出先には注意が必要です。

 検察庁の場合は,事件係に提出するのが普通です。ただ,軽い罰金刑のある罪にあたる事件の場合等,扱いが地検なのか区検なのか判然としない事案だとめんどくさいです。この点を解消するために,当職は

□   地方検察庁   

□    区検察庁

□            御中

などと記載しておき,提出時に手書きで空白を埋めて,チェック欄にチェックする方式をとっています。地検支部の可能性もあるので,後ろもやや空けておくのがミソです。また,裁判所に提出する場合もあり得ることから,まったくブランクの宛名欄を書いておくと捗ると思います。

 なお,「●●地方検察庁検事 殿」などと書いてある書式も目にしますが,「●●地方検察庁検察官事務取扱副検事」だったりする可能性もあるので,「検事」は不要どころか不用意な記載だと思います(激旨ギャグ)。

 あ,今思いましたけど,地検と区検を統合して「検察庁」とだけ書いておけばいいんじゃ・・・。・・・手持ちの書式直しとこ・・・。

 

 書式と言えば,名著との呼び声の高い「刑事弁護ビギナーズ」ですが,意外と書式はノーチェックなようです。

 

 

 「1-2.弁護人選任届(被告人)」というファイルを開くと,宛名が「○○地方検察庁」になっています・・・(念のために指摘しておくと,被告人段階ですので提出先は裁判所になるはずです。)。もしかしたら新しい版では直っているかも知れませんが。

 フォローしておくと,「刑事弁護ビギナーズ」は修習生・新人弁護士必携の書だと思います。今でも初回接見に行くときは必ず持っていくようにしています。

 

「べんせん!」の結びにかえて

 ということで,私選弁護は数えるほどしかやったことがない当職による弁護人選任届の実務,いかがだったでしょうか。

 有名な論点といいつつ,重箱の隅をつつくような論点をご紹介しました。いずれの論点も結局は「実務に乗っかれ」という,元も子もない結論になってしまいましたが,実務を変えていくのはこういうひとつひとつの積み重ねだと思っています。特に刑事弁護の分野では,接見指定の問題や証拠開示など,先達たちの活躍によって実務が大きく変わってきた歴史があります。今回の論点についても弁護人が意識していけば,必ずや実務は変わっていくものだと考えています。

 という感じで,今年に入って私選弁護が2件立て続いたために書いて参りましたが,そろそろ筆を置こうと思います。

 

参考文献

 経験と条文を元に書きました。

 あとは「刑事弁護ビギナーズ」の書式集を見ました。