読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

「弁護人選任届の実務(1)」

はじめに

 今回のテーマは弁護人選任届についてです。
 何度かTwitterネタにしているとおり,弁護人選任届に関する文献も思いの外少ないです。刑事弁護ビギナーズにもあまり大きく取り上げられていません。その割に意外と知られていない問題が多くあるので,ざっくりおさらいしてみたいと思います。

 「弁護人選任届を弁護士会事務局に提出した」なんていう面白事案(http://t.co/ABQa9gVv の2頁目の右上)もあるくらい,あまり論じられていない問題のようです。

弁護人選任届の意義

 弁護人選任届,略して弁選は,被疑者・被告人の弁護人に就任したことを証明し,捜査機関や裁判所にそのことを届け出るという意味合いのものです。
 提出する際には,写しをも持参して,原本を提出して写しに受付印を押してもらいます。弁選を提出してしまうと,手元には自己が弁護人であることを証明するものが何も残らない一方,提出したという証拠も残らないからです。
 弁護人選任届を提出する必要があるのは私選弁護人を引き受けた場合に限ります(当たり前過ぎますが一応。)。私選といっても,純然たる私選弁護だけではなく,被疑者援助事業を利用した場合や手弁当で引き受けているような場合も含まれます。なので,「国選ではない刑事事件」の場合で弁護人となるには必ず提出する必要があります。
 さて,弁護人選任届については,刑訴規則17条及び18条に規定があります。

(被疑者の弁護人の選任・法第三十条)

    第十七条 公訴の提起前にした弁護人の選任は、弁護人と連署した書面を当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員に差し出した場合に限り、第一審においてもその効力を有する。  

(被告人の弁護人の選任の方式・法第三十条)
    第十八条 公訴の提起後における弁護人の選任は、弁護人と連署した書面を差し出してこれをしなければならない。

  民法でいうところの冒頭規定説的な書きぶりですね。
 弁護人選任届はこの規定に従って提出する必要があります。

 

問題提起

 この条文には有名な論点が2つあります。今回はそのうちの1つを取り上げます。
 まずひとつは「弁護人が自署する必要があるかどうか」です。
 前提として,「連署」の意義がなんであるかが問題となりますが,この点については判例があり,「連署とは、弁護人になろうとする者と被告人とがそれぞれ自己の氏名を自書し押印することであることは、同規則六〇条によつて明らかである」とされています(最高裁昭和40年7月20日決定刑集19巻5号591頁)。
 この判例の趣旨からすれば,当然に弁護人が自署することが必要であるようにも思われます。
 実際,たとえば日弁連のHPにある書式(http://www.nichibenren.or.jp/contact/information/doc-10.html)でも,「弁護士甲田一夫を弁護人に選任しましたので,連署をもってお届けします。」とあり,自署することが前提とされているように見えます。

  
刑訴規則60条の2第2項説

 さーて,ここから刑裁サイ太の独自の研究が始まりますよ。
 刑訴規則60条の2という条文があります。

(署名押印に代わる記名押印)

    第六十条の二  裁判官その他の裁判所職員が署名押印すべき場合には、署名押印に代えて記名押印することができる。ただし、判決書に署名押印すべき場合については、この限りでない。

    2 検察官、検察事務官司法警察職員その他の公務員(前項に規定する者を除く。)又は弁護人若しくは弁護人 を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者が、裁判所若しくは裁判官に対する申立て、意見の陳述、通知、届出その他これらに類する訴訟 行為に関する書類に署名押印すべき場合又は書類の謄本若しくは抄本に署名押印すべき場合も、同項と同様とする。

 これによれば,弁護人選任届の提出が,「裁判所若しくは裁判官に対する申立て、意見の陳述、通知、届出その他これらに類する訴訟行為に関する書類」といえれば,記名押印で足りそうです。
  まず,起訴後の弁選については,裁判所そのものに提出する書類ですので,この規定により正面から記名押印で足りるといえそうです。
  一方,起訴前,検察官又は司法警察員に提出する場合はどうか。 弁選の提出が「裁判所若しくは裁判官に対する・・・その他これらに類する訴訟行為」といえるかが問題となります。
  同条項の規定は「裁判所」と「裁判官」をわざわざ分けて限定しているような条文ですので,訴訟行為の対象は限定されていると読むのが自然で,これに「捜査機関に対する訴訟行為」を含む解釈は困難なのではないかと思われます。
 このように,起訴前に提出する弁選には弁護人の署名・押印が必要で,起訴後に提出する弁選は弁護人の記名・押印で足りるという説を,「刑訴規則60条の2第2項説」と名付けました。たった今名付けました。


  この説に立つものとしては,平成18年版刑事弁護実務(司法研修所・編)が挙げられ,同書の48頁では「捜査機関に差し出す弁護人選任届けについては,連署を要するが,裁判所に差し出す弁護人選任届については弁護人の署名押印に代えて記名押印で足りる(規60の2Ⅱ)」と明確に「刑訴規則60条の2第2項説」を採用することが明言されています。

 なお,余談ですが,少年審判規則14条3項は,付添人選任届を提出する場合は記名押印でよい旨わざわざ定めています。
 弁護人選任届と付添人届で違うのが個人的に不思議だったのですが,「裁判所との関係では記名押印でよい」と理解すると合点がいくような気がします(付添人は家裁送致後に選任するものであって,捜査機関に提出することが観念できない。)。
 

反対解釈説

 しかし,刑訴規則17条の規定は「連署した書面を提出した場合は,第1審まで効力を有する」となっています。それを反対解釈をすると,「連署しない書面を提出した場合は,第1審では効力を有しないものの,第1審までは効力を有する」と理解することも不可能ではありません。この説を,「反対解釈説」と名付けました。やっぱり今。
 この議論は十分に成り立ちうるものと思われますが,やや技巧的な解釈の感が否めません。無理に冒頭規定説っぽく規定していることがその原因なので,そのような解釈を取らないのであれば,改正すべきなのではないでしょうか。
 この説に立脚する論者としては,奥村弁護士http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20071121/1195637776)や「実務刑事弁護」さん(http://lodaichi1.exblog.jp/11881775 ただし,受取拒否もやむを得ないとする。)がいます。
 前者のブログによれば,奥村弁護士は捜査段階から記名・押印で通しているようです。同弁護士の実務については大阪高裁の見解も示されているようで,

阪高裁h20.4.17

    2 訴訟手続の法令違反の主張について

      所論は、弁護人は、自己の記名押印のある弁護人選任届を提出した平成○年8月31日から自己の署名押印のある弁護人選任届を提出した同年9月6日ころまでの間、弁護人選任届には署名が必要であるとして被告人の弁護人として扱われなかったものであり、このように弁護権を侵害された状態で作成された被告人の供述調書(原審乙7、9)は違法収集証拠として証拠能力がないから、これらを証拠として採用し、これらをもとに有罪判決をした原審裁判所の措置には、刺決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある、というのである。

      しかしながら、関係証拠によると、本件に関わった検察事務官が、起訴前に提出された弁護人選任届に弁護人の署名を求めた事実があるとはいえ、それ以上に捜査機関が奥村徹弁護士の弁護人としての活動を妨害したような形跡はなく、同弁護士が被告人の弁護人として必要な弁護活動をすることに支障があったとは認められないから、所論が指摘する各証拠の証拠能力を肯定した原審裁判所の措置に所論のいうような訴訟手続の法令違反があるとはいえない。訴訟手続の法令違反に関する所論は採用できない。

 と,高裁からも是認されているようです。

 

判例

 東京高裁昭和30年8月30日高刑集8巻6号869頁があります。

 弁護人選任は刑事訴訟法上重要な訴訟行為であり、さればこそ刑事訴訟規則第十八条も弁護人の選任は弁護人と連署し た書面を差出してこれを為すことと規定しているのであるから、この方式を簡略とし記名押印をもつて足りるとはいえない。従つて前記弁護人選任届(弁護士M という記名印を押捺しその名下にM弁護士の押印があるのみで弁護人の署名がない)は、右規則第十八条に違反するものとしなければならない。しかし、同条の 方式に違反する書類は無効とする旨の規定も存しないのであるから、弁護人の署名押印すべきとところを記名押印となつていることのみで弁護人の選任が無効と は解し得られない。(弁護人選任届についても刑事訴訟規則第六十条が適用されるから連署というのは署名のみではなく署名押印を要するものと解すべきであ る。)而して大審院昭和七年(れ)第一、三二七号判決は弁護人の署名が存し捺印を欠いた弁護屈について、これを無効と解すべからずとしているところであり (大審院判例集第十一巻刑事一八五三頁参照)本件のように弁護人の署名がなく、記名押印が存する場合にも同一結論に達せざるを得ない。又原審公判調書には 第四回を除いて被告人の選任した前記弁護人Mが公判に立会つた記載が存するし、第四回公判も同じく被告人の選任した弁護人Aの立会によつて審理を進めてい ることが明白であるから、弁護人なくして公判を開廷した違法があるともいえない。以上説明のとおりで、本件におけるMの弁護人選任は刑事訴訟手続の法令に 違反することは明らかであるが、その違反は、未だ弁護人選任を無効とするものではなく、それ故に又所論のように原審の訴訟手続をすべて無効とするものとは いえないから、右違反が判決に影響を及ぼすこと明らかなものと解すべきではなく、論旨は従つて理由がない。

  本裁判例は,起訴後の弁護人選任届の効力の問題を論じているようです。しかし,刑訴規則60条の2ができる前の裁判例ですので,「なんだ,起訴後だからさっきの解釈でも当然に有効じゃん」とは言えないものです。
 この裁判例は,「確かに法令違反に当たるけど,署名だけでもOKにした大審院判例があるし,弁護人選任の効力を否定するようなレベルじゃないよね」という理解に立つようです。先の奥村弁護士のブログに引用されている裁判例も同様の見解に立っているようにみえます。

 

1点目の論点のまとめ

 「起訴後の弁選は記名・押印で足りる」という点については,どの説に立っても問題なく認められると思われます。
 「起訴前の弁選は記名・押印で足りる」という点については説がいくつかに分かれており,裁判例も高裁レベルのモノしかありません。
 そう考えると,受付であらぬ押し問答になることを避ける意味では,起訴前は署名・押印の弁選を巻く方がベターではないかと思われます。まあ,起訴前は原則として弁護人は3人までとされているので,署名する手間もそこまでじゃないよねという話もありますし。
 また,起訴前・起訴後で署名・記名が変わるのをいちいち覚えているのも無駄なので,「弁選は署名・押印!」と覚えておくのもひとつの方法です。というか実務的にはそれ以外の答えはないような・・・。
 まあそれを言い出すとこのブログ記事がまったく無意味なものになってしまうので,そういう色々な説があるということは忘れないでくださいお願いします何でもはしませんから。

 

参考文献

 文中に挙げた
 刑弁でGO!第25回(東弁)(http://t.co/ABQa9gVv
 奥村弁護士http://d.hatena.ne.jp /okumuraosaka/20071121/1195637776)
「実務刑事弁護」さん(http://lodaichi1.exblog.jp /11881775)
 平成18年版 刑事弁護実務
などを読んで書きました。