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刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

他称・ビジネス法務系スター弁護士によるニッチすぎる弁護士実務解説 TwitterID: @uwaaaa

「刑事弁護における弁済供託」

はじめに

 どうも。刑裁サイ太です。新しいことに挑戦しようということで,たまには実務的なブログでも書いてみようかと思いまして筆を執りました。
 想定読者は,修習生~若手弁護士,あたりに設定しております。受験には役に立たないと思います。あ,でも受験生向けの記事も書くかも。
 ということで,最近,刑事弁護で弁済供託を何件か立て続いて担当したので,そのときの覚書代わりに,「刑事弁護における弁済供託」について論じたいと思います。

刑事弁護における弁済供託の意義

 さて,窃盗罪や傷害罪など,被害者のいる事件の弁護人は,(資力があれば)被害弁償や示談を求めて日夜奔走しています。しかし,中には感情的になっていて被害弁償金を受け取っていただけないケースもままあります。個人が感情的になっているならまだしも,会社組織なのに「犯人を懲らしめるため,受け取らないことになっている。」と断言するようなところもあったりします。
 そういう場合,示談交渉の経過を弁護人名義の報告書にまとめたり,示談金として被疑者被告人から金銭を預かった上,示談の努力を続ける旨の書面を作ったりして証拠化するのが一般的とされています(刑事弁護ビギナーズ142頁参照)。
 それでもなお金銭を支払いたい場合には,弁済供託(民法494条)の方法が考えられるところです。刑事事件の被害者であれば,被疑者・被告人に対して当然に不法行為に基づく損害賠償債権を有しているわけで,それを受領拒否されたので供託できる,というわけです。
 結論から申しますと,この弁済供託は実際に可能です。しかも,その上,国選の場合,供託書の写しを提出すれば「実質的損害賠償」として認定され,特別報酬が加算されます(微々たる額ですが・・・。)。裁判官・検察官も実質的被害回復として良情状として考慮してくれるはずです。
 しかし,物の本を見ても,「刑事弁護で弁済供託はできる。」と書いてあるだけで,肝心の手続について論じられているものはほとんどありませんでした。大まかな手続としては,供託所に供託書を提出して供託金を納めればよいわけですが,実務的なポイントを解説してみようと思います。

供託所について

 供託は債務の履行地の供託所にすべきこととされています(民法495条)。不法行為債務は持参債務とされていますので,基本的には被害者の住所地を管轄する法務局が管轄となります。裁判所や検察庁と同様に,支局が存在するので管轄区域の確認は必須でしょう。
 また,被害者が会社である場合には,当該会社の本店所在地になります。チェーン店のような場合,直営店なのかフランチャイズなのか,また債権がどちらに帰属するのかを確認する必要があります。
 また,法務局はクッソ親切な(ところが多い)ので,事前にやりとりすることは必須の作業といえるでしょう。供託書等のチェックをお願いすると快く応じてくれます。

 

供託書について

 供託書の書式は法務省のサイトにあります。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00015.html
 「第1 弁済供託 2 その他の弁済供託 (1)受領拒否(損害賠償金の供託)」や「同(2)受領拒否(交通事故の損害賠償金の供託)」が参考になるでしょう。

 ご覧のように,OCRで読み取る専用の書式を用います。書式自体は供託所(法務局)に備え付けてありますので,予め入手しておきましょう。
 そして,供託書の内容ですが,「供託の原因たる事実」を記載するのに骨が折れます。
 まず,(1)には記載がありませんが,「供託者の相当と考える損害賠償金」である旨の記載が必要です。不法行為による損害賠償はその範囲は相当因果関係があれば何でも含まれますので,一般の契約関係のように,債権額が一義的に定まるものではありません(たとえば被害弁償の部分の他にも,慰謝料も当然に含まれるはずです。)。なので,どうしてその額なのかという意味で,「供託者の相当と考える」という記載が必要なのです。
 次に,弁済額に対する,供託書を差し入れる日まで(×供託金を納入する日)の遅延損害金をも含める必要があります。この計算が,慣れていないと非常に難しいと思われます(某フォーラムでもめんどくさいという話題になっていました。)。

 遅延損害金については,別途記事を書きましたのでそちらをご参照ください。

keisaisaita.hatenablog.jp

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 ポイントは,「不法行為日(基本的には犯行日になるでしょう)を算入して計算する」「1円未満は四捨五入する」「期間に閏年が含まれる場合は要注意」でしょうか。
 初日を算入することは,不法行為による損害賠償債権が不法行為の時に遅滞に陥ることとされている(最高裁昭和37年9月4日判決民集16-9-1834等参照)ことから明らかです。この考え方を敷衍すると、たとえば交通事故当日に弁済するような場合でも初日分の遅延損害金を付する必要があることになって違和感があるのですが,当たったいくつかの法務局ではこのことは当然の前提とされていました。
 四捨五入する点は,通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律3条1項から明らかです。供託金は国庫に納めるので,一見すると同条2項の適用があるようにも思われるのですが,問題となっている債権が私債権である以上,同条1項の問題になります。
 閏年が期間に含まれる場合は計算がかなり複雑になります。それだけで数回に亘る記事が書けそうなレベルでアレです。「民事訴訟マニュアル上巻」2頁以下が非常によくまとまっていますのでそちらを参照してください(なお,法務省謹製の「遅延損害金計算ソフトウェア」なるものが頒布されていますが,初日算入オプションがなく,閏年計算についてもちょっと怪しいので,使用はお勧めしません。)。

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 このようにして検討した「供託の原因たる事実」ですが,管轄法務局とやりとりをして,事前に調整しておくことが望ましいです。そうしないと,誰かさんのように,当日いきなり訂正を求められてテンパります。

 

供託の手続について

 弁済供託をするためには,受領拒否されなければなりませんので,被害者方に赴いて現実に提供する必要があります(もっとも,供託の手続上は「現実の提供があったこと」自体の疎明は必要ありません。)。なお,法務局の担当者が「あー,あの会社は受け取らないんですよね。」と述べていた事案でも,「受領拒絶が明らか」とは認定してくれませんでした。
 そして,供託書を必要書類を添えて管轄法務局に提出します。郵送でも可能ですが,遅延損害金の計算との関係で難がありますので,法務局と相談を。
 被疑者・被告人の使者として提出する方法もありますが,委任状を巻いておいた方が話がスムーズだと思われます。委任状も先の法務省のサイトに書式があります(こちらにも「供託の原因たる事実」を記載する必要がありますが,供託書のコピペでOKです。)。身柄拘束されている被疑者・被告人の場合,指印証明を徴してもらった方が安全だと思います(認印,指印のいずれでも受け入れ実績あります。)。
 供託金の納入の方法ですが,現金を持ち込むか,振り込むか,電子納付(ペイジー)の3通りです。現金は扱っていない供託所もありますのであらかじめ確認を。

 

供託後の手続について

 供託の際,供託所を通じて債権者(被害者)に供託する事実を通知することができますが,一般の方が「弁済供託」などと言われてもチンプンカンプンだと思われます。弁護人名で事情を説明したお手紙を送付するのが望ましいでしょう。

 

刑事事件終了後について

 このようにして実施した弁済供託も,被供託者(債権者)がその供託金を受け取る(還付手続といいます。)までは,いつでも供託者が取り戻す(取戻手続といいます。)ことができます。

 そのため,公判が終わるまでは供託してままにしておき,判決が確定してから取り戻す,というアレな手法が執られることもあるようです。

 そのようなことがないように,「取戻請求をしない」旨の誓約書等を作っておく方法もあるようです。いずれにしても,そのへんは弁護人のモラルに任せられているというところでしょうか。

 

さいごに

 以上のように,弁済供託の手続は非常に煩瑣です。しかし,実質的被害弁償と同じように扱われますので,ぜひチャレンジしてみてください。

 

 

参考文献

文中に挙げた,

・刑事弁護ビギナーズ

民事訴訟マニュアル上巻

のほか,

・新版よくわかる供託実務

も読んで書きました。